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全部抱きしめて

1998年
作詞 康珍化 作曲 吉田拓郎
アルバム「みんな大好き」/アルバム「Hawaiian Rhapsody」/アルバム「一瞬の夏」/DVD「吉田拓郎LIVE~全部だきしめて~」/DVD TAKURO & his BIG GROUP with SEO 2005/DVD「TAKURO YOSHIDA LIVE 2012」

大漁旗のはためくもとに

 言わずと知れた「LOVELOVEあいしてる」のテーマ曲にして本人歌唱のみならず、Kinkikidsのカバーによってメガ・ヒットとしてチャートNo.1を獲得した。拓郎ファンにとっては、もはやこ作品が好きか嫌いかという事よりも、広く世界の老若男女に「吉田拓郎」の存在を再び知らしめたことにこそ意味があるのではないか。
 聴くと勇躍元気が湧く歌だが、それは、この作品に元気をもらうだけでなく、この曲が世間で大ヒットしたという誇らしさに元気をもらうところも大きいのではないか。漁船でいえば「大漁旗」のようなものだ。
 90年代前半の「吉田拓郎」が世間からフェイドアウトしかけていたあの厳しい冬の時代が終わりを告げたことの喜びと安堵。曲の良し悪しなんぞより、ああ、これで拓郎が再び世間に認知されたとのだと拓郎ファンの多くは欣喜雀躍したのである。「キンキ」「ジャクヤク」ってウマイな自分。最初に、この曲の前半の棒のような抑揚の無いつぶやきのような字余りを聴いた時、あらららと不安がよぎったが、「全部抱きしめて」のところからの光射すような展開。この美しい陽転とともに聴き手を明るく解放してくれるメロディーが嬉しい。
 番組も大成功し勢い余ったバブルな拓郎ブームに「テレビの拓郎は堕落した」と湧くファンの不満に、拓郎が「おじさん、おばさんのファンなんていらねーよ」と応酬するという不幸な緊張も生じた。しかし、それもこれもノーサイドになった今、LOVE2にはその後の拓郎の音楽家としての活動にとっても大きな追い風になったことは事実だろうとあらためて思う。
 拓郎の偉大なところはバブルの蜜の味を知りつつも、他の多くのミュージシャンのようにタレント化してテレビの奴隷などにはならず、番組終了後は、ビッグバンド・ツアーという利益を度外視した音楽活動に挑んだ所だろう。その成果物としてあの「つま恋」の偉業があった。
 LOVE2の終焉とともに、この曲も封印されたかに思われたが、2004年のビッグバンド2年目のツアーで演奏され、そのまま「つま恋」でも披露された。テレビも武部聡志も吉田建もいなくても作品として成り立つことが証明され、つまりは、ひとつの楽曲として蘇生したのだと思う。しかも、おじさん、おばさんが会場で慣れない振り付をしながらこぞって踊るという拓郎のライブでは異例のノリノリ楽曲として定番となった。
 拓郎を今の世に知らしめた「大漁旗」としての誇らしさとともに、拓郎もファンも悲喜こもごもの時代を通り抜け、特に拓郎の癌という大病をも越えて、いままここでステージを共にすることへの歓びの踊りだった。マサイ族で言えば「収穫と感謝の踊り」とその魂は一緒だったと思う。なんだそりゃ。
 LOVE2から遠く離れた今からこそ「全部抱きしめて君と歩いて行こう」という歌詞の深奥を心から味わえる時ではないかと思う。永遠のスタンダードここにあり。

2016.2/20