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憂鬱な夜の殺し方

1990年
作詞 森雪之丞 作曲 吉田拓郎
シングル「俺を許してくれ」/アルバム「176.5」

雪之丞変化の世界の泳ぎ方

 アルバム「176.5」の目玉のひとつである森雪之丞との共作群。その中からこの作品がピックアップされてシングル「俺を許してくれ」にカップリングされ、コンサートでも演奏されることになった。看板曲にして自信作だったに違いない。そういうシチュエーションだけではなく、実際にサウンドは洗練されたスタイリッシュな感じがして、新しい。それは、今聴いてもそう感じる。
 この詞の世界は、10階のテラスの「星の鈴」の世界とつながっているかのように、都会的なトレンディドラマの景色を見ているような感触にくすぐられる。
 「ニュースショーがはねたあとの・・・」のくだり。バブリーな高層マンションの部屋のベッドで恋人とシーツにくるまって「ニュースステーション」を観るような暮らしを思い浮かべて、憧れたものだ。自分には叶わなかったが、そういうことではない。ドラマのような景色にイケてる御大がそこに出演しているような特異な雰囲気がある。
 自分の影を踏んで躓く憂鬱な夜。甘く退廃的な雰囲気を描き上げる森雪之丞の世界。気だるく少し退廃的に香りが漂う世界。ゆらゆらと波間を漂うようなメロディーに、残響をともないながらどこか幻のようなボーカル。シャウトする御大も素晴らしいが、この作品のように少しヨレた流し運転のような力のない歌い方をするときの色香がまた素晴らしい。それまでも、その後もあまりない作品の雰囲気になっている。人工的で気に入らなかったコンピューターの打ち込みは、こういうところで見事に奏功している。
 夢幻のような退廃した雰囲気の中にあって「抱き合うより君を尖らせ夜を殺したい」のフレーズが光る。なんと詩的で含蓄のある表現だろうか。さすが森雪之丞である。このフレーズか確かなコアになって、この作品が確固たるものになっている気がする。結局、どうすれば憂鬱な夜を殺せるかはわからないままだが。

2016.3/12