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夕陽は逃げ足が速いんだ

1989年  作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
DVD「89 TAKURO YOSHIDA in BIG EGG」

こぼれ落ちた夕陽が逃げて行く

 この作品は、もともとアルバム「ひまわり」に収録されることになっており、ダンカンの「僕は買います」という例のCM宣伝の時にも収録曲としてクレジットされていた。にもかかわらず、直前でカットされた。このアルバムで同じ運命を辿った曲として小室等作の「六月の雨の中で」がある。この二曲が削られたのは、アルバムの雰囲気にそぐわないという御大の判断だった。ということは、アルバム「ひまわり」の「なんか曲数が少なくね?」という軽量感も「なんか神様、天国、天使が飛んでね?」というスピリチュアル感も御大の熟慮のうえの計画の結果だったことになる。
 御大はカットこそしたもののこの作品自体の評価については「これは大作だ」「この曲はこの曲で、たくましく生きて行くことでしょう」とエールを贈っていた。そして東京ドームをラストに向えたコンサートツアーで、堂々と披露されたのだった。
 なんつっても、御大の詞の「やさぐれ感」がいい。「不味い酒のみ過ぎた、嫌なことが多いから」と鬱々として「ひっそりとコソコソとやろう。心の扉を閉じて偽り続けてみよう」と世を拗ねてみせる。そして「許せないヤツを記憶の中でひとりずつ消してしまいたいね」と苛立ち、「きっとこの世は俺達のような、どこ変わったものには冷たい」という哀しみがにじみ出る。
 「夕陽は逃げ足が速いんだ」・・これは人生の時間の終着があっという間だということなのだろうか。やさぐれながらも苛立つような性急な感じに迫力がある。
 このバンド演奏は出色ではないか。ライブだからこそ成功したという気がする。急き立てられるようなタイトな演奏。レコーディングされた原曲を聴いていないのでなんともいえないが、これをこんな風にライブで演奏したのは正解だったのではないか。ぐんぐんドライブして、たたみかけてくる大作感が存分に生きている。ってか、すげーカッコイイナンバーになっているのだ。
 鎌田清のドラムが、まるで海に投げた石が水面をスコンスコンとホップして飛んでいくように小気味よく決まる。これでもかとたたみかけてくる演奏が熱くて厚い。うねるような演奏に上質なロックを魅せられた気分になる。ライブでは序盤の4曲目に披露され、新曲であるにもかかわらず力強くコンサートをグイグイと牽引したのだった。
 これは、東京ドームという当時としては巨大過ぎて共鳴するような劣悪な器ではなく、普通のしっかりした音響のホールで聴いたらどんなだったんだろうと思ったりする。どっかでもう一度会いたい作品である。

2016.4/9