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世捨人唄

1974年
作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎
アルバム「今はまだ人生を語らず」

軽やかで伸びやかなる世捨人

 何度も書いたが名盤、いや神盤である「今はまだ人生を語らず」は、一曲目の「ペニーレインでバーボン」、二曲目の「人生を語らず」と超重量級のオープニングに打ちのめされる。コース料理でいえばいきなり特大の「オマール海老」と「サーロインステーキ」を食べさせられたみたいな重量感がある。それこそがこのアルバムを神盤たらしめている大きな要因のひとつだ。
 そして、いきなりメイン料理を二皿食べさせられたところで、この「世捨人唄」が、箸休めのように出てくる。ここら辺がよくアルバムの構成が考えられているところだ。もし、この三曲目で「僕の唄はサヨナラだけ」を入れたりしたらさすがにギブアップになりかねない。ライトで爽快な曲調が、聴き手を快い世界にさらにガイドしてくれるかのようだ。
 この作品は、もともとは森進一の「襟裳岬」のB面にカップリングされた。御大のバージョンとは異なるドッシリとしたド演歌チックに歌い上げられている。襟裳岬も含めて、御大の作ってきたポップなデモテープに頭を抱えた森進一のスタッフ・編曲家たちが、何とか森進一の演歌テイストに仕上げようという苦闘が窺い知れるようだ。西洋料理をなんとか和食に無理矢理アレンジしてヘンテコな料理を出してしまう料理人の苦労のようなものが偲ばれる。
 そして岡本おさみの旅と人生のエッセンスがこめられたこの詞はシンプルで簡潔だが素晴らしい。故郷を捨て川に漕ぎだす人生の舟。対人関係や恋愛関係のもつれをやりすごしながら哀しみの川をどこまでも漕いで行く。ココでオールを失くして戸惑うと松本隆の詞になる。おい。
 戸惑いながらも、どこまでも漕いで行くのが岡本おさみの詞だ。思い込みだが、森進一と御大の73年の悲痛事を考えると、そんな哀しみの川をどんどん漕いで先へ行こうという激励のようにも思えてくる。
 それにしても明るく意気軒昂なサウンドは、私たちをCheer upしてくれる。何より御大ののびやかなボーカルが清々しく嬉しい。「ましてぇぇぇ男と女ならぁぁぁ」のところの空に向かってどこまでも伸びて行くような歌声のしなやかさがたまらない。清々しく力強い箸休めは、もちろんこのアルバムの重要なマイルストーンである。

2016.4/23