よせばいい
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「Much Better」
もっとかろやかに、もっとしなやかに
85年つま恋で音楽の第一線を自ら退いた御大。それから3年のronin生活を経て御大は帰ってくる。かつての熱狂には線を引き、「等身大」のひとりの男性としてファンの前に現れた。ファンとしては、その素敵さは認めつつも、どう迎えれば良いのかは大いに迷ったものだ。「タクロー、落陽やれぇ」と言うかつての空気が拒絶されている雰囲気があった。3年間の不在で何が変わったのか。
ひとつの答えがこの作品の中にある。「よせばいい」。この投げやりで意味深なタイトル。「~しなくちゃならない」と義務感に苦しむ人々に対して、そして何より自分に言い聞かせるように、そんなこと「しなくていい」と優しくしかし毅然と語りかける。「振り返ったりしなくていい」、「世の中と抱き合わなくていい。」「何もできないからなんて哀れを慰めないで」は、ステージだけの名曲「僕の一番好きな唄は」とシンクロしていてちょっと嬉しくなったりする。
「心が薄っぺらだとしても今痛む時だから」と言うフレーズに溢れた深い優しさ。自分も身の置き所のないような悲しみに傷ついたことがある人しか絞り出せないあたたかなフレーズ。このように静かなるエールが繰り返されている。
85年のひとつのピリオドは、やはり過去の栄光や世の中の勝手な期待がもたらす、さまざまな重い枷やしがらみが容赦なく御大を苦しめ、そこからの脱出だったのだと
いうことがわかる。
そして再デビューは、そういう義務感やしがらみを一切拒否しつつ音楽をやるんだという決意を感じる。「またひとつ覚えた時はまたひとつ忘れればいい」常にしがらみをゼロにリセットしておくことを言い聞かせる。そして、リセットしたかどうか、そんなことからも自由になりたい、「ああ、それだってよせばいい」どこまでも自由を求める歌になっている。
私たちが日々暮らしの中で思い悩むとき、この作品を脳内に流そう。一見大切なことであっても「ああ、それだってよせばいい」と繰り返そう。「よせばいい」とつまらないことを切り捨てながら御大と一緒に歩いて行こう。そういう意味で、このアルバムの中では、最も心に響く実践的実用的な唄かもしれない。 ※そのことが、切り捨てて良い問題かどうかは各自の責任でご判断ください。
2016.4/23