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やせっぽちのブルース

1970年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「青春の詩」/アルバム「よしだたくろう オンステージ ともだち」 /アルバム「吉田拓郎 ONE LAST NIGHT IN つま恋」

漲るブルース魂のゆくえ

 この作品は、おそらくはボブ・ディランの「やせっぽちのバラ-ド」にインスパイアされたのだと思う。そもそも風に吹かれるような「やせっぽち」というフレーズは、華奢でスマートな御大だからこそ成立する。三上寛や小椋佳には歌えまい。なんで比べるかわからんが。
 しかしタイトルが似ているだけでディランの原曲の難解で鬱々した感じとは程遠い、カッチョイイ、ブルースがこの作品だ。フォークの黎明と評されるデビューアルバム「青春の詩」の中に「ホントは俺はフォークじゃないんだから」と抵抗を示すかのように鎮座する。諸種の事情から制約が多かったであろうデビュー間もない初期のフォーキーなライブにあって、ワイルドにステージを引っ張る作品だったことは、「よしだたくろうオンステージともだち」の中でも確認できる。当時はブルース魂を発散させる貴重なツールだったのかもしれない。
 ライトニン・ホプキンスの影響がライナーに綴られているが、申し訳ないがここで初めてその方を知った。ライト・ニンホプキンスとは伝説の黒人ブルースギタリスト。聴いてみると確かにそのエッセンスが通低している感じがする。もともとR&Bで音楽魂を育まれた御大だ。ブルースの血が漲っている御大の魂。だからこそ、モータウンのレコディングを目指し、またブッカー・Tと共演し、スピンオフした魂は。レゲエとも深く結縁した。すべてがソウルで固く結ばれているに違いない。
 忘れられないのは、アメリカでブッカーと共演した時に、御大は、オレたちは「カラード」だからと総括していたことだった。二グロスピリチュアルとの関係をそんな風に表現した御大は素敵だった。そこにこそ原石のようなブルース魂があるのかもしれない。おれたちカラードは、チカラをあわせて悪い白人を退治しようという気になってくる。方向が違うか。
 デビューから遠く離れた85年のつま恋のステージでこの作品が演奏された時は少し驚いた。おお、ここで来たか。たっぷりとしたゴージャスなイントロ、王様バンドの盤石な演奏に支えられたブルースを聴かせてくれた。余裕すら感じる成熟したボーカルは、月並みな表現だが15年間の魂の放浪の結実であるかのようだ。そして2015年年末のファンクラブ会報の対談では、次回のセットリスト候補に挙げられていた。おおっ、歌うのか。野生の魂がまだ御大を呼んでいるのか。嬉しい限りだ。

2016.3/12