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わけわからず

1978年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「ローリング30」

レミーマルタンの愛と孤独

 御大の作品には、感動的な短文や名フレーズを並べて作る「金言・名言集型」の作品形態がある。代表格は「イメージの詩」「暮らし」「7月26日未明」あたりか。この作品も「金言名言集型」に属する。
 アルバム「ローリング30」では「海へ帰る」と並んで貴重な御大作詞作品である。しかし松本隆の詞が圧倒的な超絶名曲揃いのためか顧みられずにいる気がする。そもそも「わけわからず」という投げやりなタイトルも災いしていないか。
 しかし、この作品の金言名言のクオリティはかなり高く傑作の部類に入るのではないかと思う。「悲しいのは」に連なるようなラテン系の陽気なノリである。音楽界に再び打って出る気骨のようものが漲っている。このころの御大が、何を考え、怒り、燃え。苦しんでいたのかという思想の片鱗が窺える。
 このころフォーライフの社長としての再建業務に疲弊している時期だ。御大を過去の人と打ち捨ててニューミュージックの世界は大盛況だった。

  「勝手にしたいと 思う程 自由をきどると たたかれる」
  「他人の言葉こそ しがらみだらけ ましてや友など 家族など」
  「何に酔う 何にすがる 何が欲しい 何も要らぬ
         せめてもの レミ-・マルタンを抱きしめよう。」

 行き場のない苦悩と切なさが漂う。バーボンを抱いていた御大が、社長になってレミーマルタンを抱きしめている。ファンはバーボンを抱くことはできるが、レミーを抱くのは大変だ・・ということもこの作品の感情移入を阻んでいるのかもしれん。
 しかし、ただやさぐれているだけでなく、音楽への脱出を目指して意欲をフツフツと燃え上がらす御大がいる。清々しい気合と心意気が除く。

  「まぶしい程の 朝陽の中に立てば心の病に気が付くさ」
  「時代は変われど 流れ出る汗も無くして 夢は無い」
  「嵐の中でも焚き火を燃やせ 自分の命を愛しているのなら」

 聴いている方にも心の底から力が湧く。
 個人的に一番秀逸だと思うのは
 「人が迷えばあとには道ができる そこには夢などかけるな追うじゃない」
 このフレーズはまさに御大ならではのものだと思う。人の人生は人のものだ。そこに自分らしさはない。「あの人のようにと考えるな 自分らしさを見せてくれ」と84年の武道館での「人間なんて」とシンクロするかのようだ。
 ともかく車を分解整備するように金言名言のひとつひとつを取り出して味わい、この作品のパワーを再認識して、バリバリと再びロードを走らせてみようではないか。

2016.11/12