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Voice

1977年
作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎
シングル「もうすぐ帰るよ」/アルバム「Oldies」

神はラフ・ワークにも宿るのだ

 シングル「もうすぐ帰るよ」のB面なので、この作品も「B面名曲伝説」の一角をなす隠れた人気作品だ。A面同様、岡本おさみの作詞だが、こっちの作品は、なんか「おっぱい」だの「地球の歪んだ円」だのヘンテコなフレーズが跳びかっていて、テキトー感が漂う。おっぱいが「小豆みたいに固い粒である」「申し訳なくて縮んでいる」というのは、岡本さんと拓郎のどっちのことだろうかと考えていたが、そんなの拓郎のことしかありえないとファンの方に怒られた。というわけで拓郎のおっぱいのことだけ考えよう。
 それに呼応してか、拓郎のメロディーも歌唱も、とてもラフな感じに満ちている。丁寧に作り上げたというより、流し運転のような感じなのだが、そこには楽曲がドライブする爽快感と情感があり、いいんだこれが。天才に向上心は要らないことの一例であろうか。
 レコーディングは、拓郎と石川鷹彦大先生の二人で行われた。石川鷹彦の「ドブロ」ギターの技が冴えわたる。レコーディング中、二人は、かつて二人で作った「旅の宿」のレコーディングを思い出していたという。この曲を演奏しながら、♪~僕の声は、~お酒を飲むと悩ましいらしいぃぃぃ、ゆかたの君ぃは~と、どうしても違和感なくつながって、そっちに行ってしまうとこぼしていた。
 B面ということで、しばらく放置されていたものの(とはいえ、その間には、何度かライブでの演奏しようしたと本人が話していた)、発表から15年経った、92年のALONE TOURで復活した。そこでは、拓郎のブルージーな弾き語りでステージにその姿を現した。
 そして、2001年にセルフカバーアルバム「Oldies」で、鳥山雄司のギターで、フラメンコ調のナンバーとして復活した。ラフな解放感のある原曲と異なり、こっちは丹念に彫琢されたイメージがある。しかし官能的で異国的な情緒が見事に醸し出されている。2012年のステージでは、同じ鳥山雄司の手によって、さらにバージョンアップされた演奏が実現されたが、それは見事なもので、鳥山雄司のギターのウデに思わず感嘆してしまう銘バージョンである。
 かくして「Voice」といいながら、どのバージョンも、ギターのフィーチャリングプレイが際立つ作品である。石川鷹彦、鳥山雄司のどちらの演奏がベストかということもさることながら、もし、この二人がステージで共演したらどんな「Voice」になるのか、想像するとちょっとワクワクしたりする。簡単そうで実現困難な夢のひとつだろうか。
 「セクシーな声」というのは拓郎の声はもちろんのこと、実は岡本さんも歌声を聴くと美声である。岡本さんのおっぱいはともかく美声は一聴の価値がある。

2015.12/20