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運命のツイスト

2019年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎   
DVD「2019LIVE73YEARS in NAGOYA」/同特典シングル「てぃーたいむ」

運命のひと踊りよ、永遠に

 2019年のLive73yearsでお披露目された吉田拓郎73歳の新曲である。2004年のツアーパンフのリハサール進行表に「想い出のツイスト」という曲名が映り込んでいたことから新規の曲ではなく蔵出しの曲ではないかとの説もあるが確かめようがない。
 ただ、ラジオでナイト(第73回 2018.9.23)の放送で「シャウトするロック色強い曲を作ってトライしてみたい。」(RollingStonesのBrownSugarを聴きながら)"よーし。オレもこういう曲つくるぞ"という気になる」と意気込みを覗かせていた。この曲のことかどうか判然としないが、この陽性のツイスト・ロックはおそらく無関係ではなかろう。よって今回の新規作品ではないかと思う。

 ライブでは、メロディも確定したものはあえて決めず、エンディングも武部の指示次第ということで、各所でライブでのグルーヴのなすがまま勢いとノリで演奏が展開された。
 特別斬新なメロディ―というわけではなくどこか聴き慣れた感もあるが、73才の吉田拓郎の魂の律動がこういう元気なツイストロックとともにあるというのはすげー嬉しいことだ。元気があれば何でもできる。意気軒高なボーカルも嬉しいし、熱くドラマチックなバンドサウンドにはついついつい身体が動いて踊りだしたくなる。新曲であるにもかかわらず殆どの会場で総立ちとなったのはごく自然なことだ。
 間奏で拓郎が踊るツイストのサービスがまた魅力の周辺にある。特に宇都宮・浜松あたりの踊り方がブイブイと凄かった。察するに都市部だとキャパが多く関係者もたくさん来るため恥ずかしかったに違いない。名古屋では踊りのシーンを映像ではカットするとまで宣言したがキチンと残っていて良かった。やっぱりLive73yearsの銘シーンと申せましょう。

 このようなライブ演奏→スタジオレコーディングというパターンでは、ライブの時の臨場感ワクワク感がスタジオ・レコーディングでレイに削ぎ落されてしまうことが多い。店で食べた美味いカレーが、レトルトのカレーのように変貌していることが多い。スキー場で出逢ったカップルが、街に帰ってから会うとお互いすげーガッカリするという必定のパターンにも似ている。特にライブでは本人がツイストまで踊ってくれたサービスに目が眩んでいたということもありうる。

 しかし”てぃーたいむ”を聴くと不思議とこのレトルト感やガッカリ感がない。これが拓郎がこだわった"せーの"で演奏するバンド一発録りというヤツの効果なのだろうか。またライブとは別の曲構成が工夫されているところも見逃せない。  このスタジオ盤で思い出すのは、RollingStonesのシングルWild horsesのB面(後にアルバム"Rarities"収録)のTumbling Diceである。小さなリハ室でピアノだけで音合わせのようにミックとキースがリラックスし楽しそうに歌う。それがフルバンドの実際のライブ演奏切り替わってゆく構成だ。宴会からいきなり本格演奏突入バージョンとでもいうヤツ。これが文句なしに燃えるのだ。それを参考にしたかはもちろんわからないが通底するものを感じる。"望みを捨てろ"あるいは豊かなる一日のopeningの"今日までそして明日から"みたいな感じで煽情的だ。これだとボーカルの魅力とバンドの威力の双方のコントラストによってお互い引き立てあうメリットがある。もう聴く方はトロッコに乗っけられて思うがままにアップダウンして痛快に運ばれてゆく感じ。というわけで迫力においても演奏のクオリティにおいても、ライブよりいいんじゃないかという気がする。

 ライブでは詞が聴き取れずその意味内容が不明だった。ツイストということで、ありがちなノー天気な明るい歌詞と思いきやそうではない。切なさを孕んだラブソングであることに気づく。

 もっとあなたと生きたいね
 多くの時もあるといい
 今夜も空には星がある
 互いの命を見つめよう

 愛しい人がいる。しかし残された時間はnumberedで限られている。そして思うにまにならない不安や困難も押し寄せてくる。まさにボブ・ディランの”Simple Twist Of Fate (運命のひとひねり)”である。オマージュとでもいうものだろうか。まさに人生とは運命のひとひねりだ。
 答えはいつもは出せないが
 その時せつなに愛おしい
 声にして永遠を誓うよ

 "永遠のツイスト"と最初拓郎はアナウンスしたがこれは間違いだったのか。"永遠"の方が素敵ではないかと思うが。ともかくこの詞だけを読んで誰かが曲をつけたら、哀愁あるブルースかロマンチックなバラードのようなメロディーになるんではないかと思う。しかし、拓郎があてがったのは、この陽気なツイストのロックサウンドだった。一見相反するような詞と曲が、糾える縄のようによられている。それがゆえの強靭さを感じる。これこそが吉田拓郎の真骨頂である。好々爺のお説教ロック(あくまでも一個人の感想だ)と悪態をついた"僕達はそうやって生きてきた"より、こっちの方が素敵だと私個人は思う。70代も新曲を作り続けるという吉田拓郎の貴重なマイルストーンにブラボ!!と言いたい。

2020.1.4