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家へ帰ろう

2002年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
シングル「家へ帰ろう」/アルバム「Oldies」/アルバム「一瞬の夏」/DVD「TAKURO YOSHIDA LIVE2012」

「家」が大好きな「旅人」というアポリア

 「家を出ることに夢を託して」「家を捨てたんじゃなかったのか」(大阪行きは何番ホーム)「My family my family 愛を残して旅に出ろ」(ファミリー)と歌った男が「この道をまっすぐ家に帰ろう」と歌う2002年のシングル盤だ。さらに2004年のビッグバンドのツアーではCDの原曲とは全く違う迫力の絶唱で歌われたことは記憶に新しい。どんだけ家に帰りたいんだ・・というド迫力のシャウトで度胆を抜かれた。そこには拓郎の溢れる思いがあったのだろう。
 拓郎といえば日本で初めて全国ツアーを確立し各地を歌い回り、夜は夜で、武田鉄矢いわく「ネオンの街を白馬に乗って朝まで駆け回っていた」という男。アウェーに好んで出かけていき、各地で戦い、そこここで遊び回るというイメージがある。まさに「日々旅にして旅を棲家とする」、まさに人生が旅ともいうべきシンガーである。
 しかし、大切なことはもともと拓郎は家にいることが何より大好きだったということだ。最近本人もよく「家好き」を口にするし、ファンならばわかっていたことだろう。子供のころ小児喘息で学校にも行けず家で一人いた話をよくする。拓郎にとってはそんな幼少期を苦痛よりも、家族の愛に庇護され、家で過ごした時間こそが至福の時であり、本人の核になっているのではないか。家で一人シェイクスピア全集を読みかじり、紙相撲で遊び、雑誌に夢中になり過ごす時間。その延長でやがてラジオやレコードで音楽に触れる。拓郎にとって「音楽」もきっと「家」とともにあったのだ。
 1975年の離婚発表のラジオ放送で、こんなことを言ったのが忘れられない。
「カミさん(四角佳子さん)と二人で映画に出かける。終わって、僕は『家へ帰ろう』と言うと、カミさんは『コーヒーを飲んで行こう』と言う。外向的なんだな。そういう小さいことが大変になってくる。」
 コンサート・ツアーにしても、夜飲み歩くことも、そこに楽しみがあったにせよ、「家好き」の拓郎には、他人にはわからない何かの覚悟が必要で、見えない負荷のかかる作業だったのかもしれない。そう思うとどうしようもなくこの歌詞が心に刺さる。
 「理由なく 涙出てきそうだから知らぬ間に こぶし握っているから」
 「逢いたい人の 笑顔が呼びかけてくる とまる事なく浮かぶ 今 僕は 何をがまんしてるんだろう 誰のため 心乱してるんだろう」
 たぶん「もうイイでしょ、僕は家が好きなの、音楽も含めて大切なものは家にあるの」という心境の歌ではないかと思う。拓郎はそういう「家」をまた見つけたのだ。2012年の作品「僕の道」も「家路」であると語っていた。「家が大好き」な「生来の旅人、放浪人」という、相反するような性を抱えながら吉田拓郎は歌う。ファンにとっても難問だ。家が大好きな人を、外に連れ出して、そこで歌を熱唱してもらう、なかなか大変なことだとあらためて覚悟せねばならない。
 この曲はテレビ東京「ガイアの夜明け」のテーマに使われた。テレ東か。しかし「この曲は何ですか」という視聴者の問い合わせもあったみたいで嬉しい。
 なおシングルジャケットのソファーはつま恋エキシビションホールのリハ室の前だ。主を待つかのようにソファーは今もそこにある。

2015.9/21