uramado-top

冷たい雨が降っている

1978年
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎
アルバム「ローリング30」/アルバム「TAKURO TOUR 1979」

海辺の叙景、9月の雨は切なくて

 名盤アルバム「ローリング30」の人気曲のひとつであることは、幾多のライブで演奏されてきた歴史からも明らかだ。まるで映画の一場面のように目に浮かぶ9月の雨の中の暗い海辺。そこにある若者の切ない恋愛風景。この詞は、つげ義春の短編漫画「海辺の叙景」が下絵ではないかとも言われる(ちなみに中山ラビさんの店「ほんやら洞」もつげさんの漫画からだ)。哀愁を含んだメロディーが見事に「叙景」と溶け合っている。
 武田鉄矢が語ったところによれば、元キャンディーズの蘭ちゃんがこの作品が大好きで「ねぇ貝殻になりたいね」の部分が特に胸に沁みると語っていたそうだ。ただ「でも拓郎さんみたいな大きな貝ってないわよね、・・・バカ貝かしら(笑)」とオチをつけてくれた。あのな。
 また「僕の膝には男の詩集」とあるが、原詩では「ハイネの詩集」だったのだが、松本隆がやっぱり拓郎にハイネは似合わないということで変更になったそうだ。あれこれ可哀想な拓郎だ。
 さらに「荒れ狂う海に『ぬき手』きったら」とある「ぬき手」。これは日本古式泳法のひとつだ。突然、彼氏が海に飛び込んでこの古式泳法をされた彼女はどんな気分なのか。「素敵よ」って言えるのか。よりによってなんでそんな泳法をするんだと思わないだろうか。
 ・・・・ツッコミどころは数あれども名曲であることは微動だにしない。特にこのオリジナルバージョンのツボは拓郎のボーカルだ。細かいところだが、「ボート小屋から素敵よって 声をかけてよ」の「かけてぇよ」の歌い回しが神がかり的にカッコイイ。

 ライブでは79年の初演以来、静かにアコースティックで導入し(79年のアコギは常富喜雄だが、それ以降は拓郎自身のギターになる)一番が終わったところで、バンドが一斉に爆発するように鳴りだして拓郎のボーカルを壮大に包み込むアレンジが定着した。このドラマチックな展開がこの作品の魅力をさらに引き立たせる。まったくもって神バージョンである。長く沈黙を守っていた拓郎が突如一夜限りのステージに姿を現した87年の海の中道、3年ぶりのコンサートツアーの興奮が高まった88年のsatetoツアーのオープニング。91年エイジツアー、特に映像にも残された札幌大倉山ジャンプ場のライブのオープニング。88年も91年も、開演前に緊張した拓郎が、♪冷たい雨が・・・の冒頭のフレーズのキーと発声を何度も確認しながらステージに決死で昇っていく姿が映像にあり、これも忘れられない。しかし、88年も91年もバンドの音が薄く間奏もサックスではなくシンセだったので、是非、瀬尾一三のビッグバンドで生音のスケールメリットを生かした完成版をと思ったが、つま恋2006では、原曲のアレンジに戻されていたのがやや残念だった。アコースティック⇒ビッグバンドの展開は、何と言っても2003年のツアーのオープニング「今日までそして明日から」があまりに圧巻だったため、奥ゆかしい拓郎は、多用するのをためらったのかもしれない。そんなの気にしないでやってくれよ。

2015.9/26