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1978年
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎
アルバム「ローリング30」/アルバム「TAKURO TOUR 1979 vol.Ⅱ」/アルバム「王様達のハイキング IN BUDOKAN」/アルバム「AGAIN」

ホントは怖い恋愛の教祖

 名盤アルバム「ローリング30」の一曲目「ローリング30」のガツンとした演奏に続いて、しっとりとした石川鷹彦のギターが流れ、徳武弘文のギターが泣きだし「爪」の演奏が広がりだす。このつながりが見事だ。
 「夜、爪切ると不幸になる」という言い伝えは、私の家では「親の死に目に遭えななくなる」と教えられていたが、いろいろあるのだな。美しいメロディーなので聴き過ごしてしまうが、よく読むと凄い詞だ。
 一緒に暮らし始めた女性の生活感に満ちた言動に息が詰まってしまった男が、別れ話を切りだそうとしている。「狂いもしない時計みたいに 君はだんだんつまらなくなる」ときたもんだ。多くの恋愛の歌は、主人公が「被害者」の立場で歌われるが、この詞は「加害者」の立場に立っている。決定的に凄いのは、「君が磨いたピカピカの床、愛が滑って自業自得さ」ひー。いいのか、そんなこと言って。「愛が滑って自業自得さ」って、それ家庭裁判所で言ってみろぉ。いみふ。
 「別れを切り出す一瞬前の 夜の背中が怖いんです」というように夜の景色とともに心の暗闇を見つめるような詩。というわけで、若い世代からは「恋愛の教祖」と崇拝され、優しいオジサマと慕われる松本隆。しかしホントは怖いんだぞ松本隆。光を描くには同じだけの闇に通じていなければならないということなのか。

 オリジナルは、箱根ロックウェル・スタジオチームの手になる逸品だ。演奏としては、この箱根ロックウェルの原曲が決定打だと思う。なんといっても徳武弘文の泣いているようなギターの音色が実に美しい。演奏全体が一体となって悲しすぎる情景を抒情的に描きだしている。
 翌79年のライブで松任谷正隆のレゲエぽっいアレンジは失敗だったと思うが、後に原曲アレンジをベースとした王様バンドのバージョンは80年代前半のライブでは定番のひとつにもなっていた。徳武弘文から青山徹に変わった分、地の底から這い上がってくるようなギターであり、ドラムもドカンドカンと響いてくる。原曲より重厚な演奏だが、拓郎が実に気持ちよさそうにギター弾いてる姿が印象的で、こちらのライブバージョンもいい。しかしやはりオリジナルバージョンが神的に素晴らしいのではないか。
 2014年に武部聡志と鳥山雄司によってセルフカバーされた。華やかではあるが、個人的には この箱根の関所を超えたとは思えない。

2015.9/26