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トランプ

1972年
作詞 広島の女の娘 作曲 吉田拓郎
/アルバム「たくろう おんすてーじ 第二集」

ゆくえなき才能の萌芽

 「たくろう おんすてーじ第二集」に所収のこの小品の作詞は、「広島の女の娘」とクレジットされている。おそらくアマチュア時代、広島フォーク村のメンバーか、あるいは河合楽器の拓郎ギター教室の生徒なのか、ともかく女子学生が書きとめた詞に、曲をつけたものと推測できる。
 そう考えると女の娘の目の前で、若き拓郎がギターを弾きながらサラリと曲をつけている、ちょうど昔の放課後の教室か部室に観られるような懐かしい光景が浮かぶようだ。いいなぁ。いよっ!この、三国一の幸せ者、広島の女の娘!誰なんだ。
 しかし、そんなアマチュアな光景とは裏腹に、このメロディーは実に秀逸だ。ただのギター好きのそこいらの若者に、ここまでのメロディーは作れまい。やはり非凡の音楽センスとしかいいようがない。
 シンプルだけれど、言葉の一言、一言をやさしく真綿でくるんで、そっと並べていくようなメロディー。その展開も素晴らしい。「こんなぁーに好きなのに」のフレーズに漂う可愛いいじらしさ、「怖くて聞けないの」の切ない高揚感。メロディー自身が実に少女心を豊かに物語っている。  たぶん、歌心ある女性が歌えば、実に効果的に生きてくるメロディーではないかと思う。根拠はないが女性がフランス語で歌うと格段に映えそうな気がするぞシルブプレ。いみふ。そう思うと、たとえばアイドルへの提供曲としても全く遜色はない。
 この「おんすてーじ第二集」が拓郎の不本意に発売されなければ、この詞を膨らませるか、あるいは別の詞をあてがうことで、きちんとしたスタンダード・ナンバーに転生したのかもしれない。 このアルバムの無断発売に拓郎が怒ったのは、たぶん、ここの曲たちをゆくゆくは、スタンダードとして完成させようという意図があったからではないか。大切なネタ帳を勝手に公開されてしまったそんな怒りだったのではないか。
 そうそうトランプを「繰る」。私の個人的な調査によれば、「繰ってみた」の「喰ってみたの」に聴こえたという人は、少なくないようだ。安心した。なんだそりゃ。

2015.10/17