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友達になろう

1978年
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎 歌 伊藤咲子
非売品シングル「友達になろう」

セブンイレブン甘酸っぱい気分

 中学1年生の頃、「ひまわり娘」でデビューした頃から伊藤咲子の大ファンだった。まさに素晴らしい歌唱力に打ちのめされた。しかし同時に天使のように美しい桜田淳子の超絶ファンでもあり、どっちが好きなんだよと友人から責められ悩んでいた(笑)。そんな時、となりのクラスの青木君が「オレはセリーグでは巨人、パリーグでは南海のファンだ」と言っているのを聞いて気が付いた。そうだ、どっちか決める必要はない。人気のセ、実力のパみたいに美しさのジュンコに実力のサッコ、セパ両球団応援してどこが悪いと理論武装をした。なんだそりゃ。それにスゲ失礼だぞ。
 しかし、「乙女のワルツ」という稀代の名曲をものにしつつも、伊藤咲子の人気は城みちるとの恋愛スキャンダルをきっかけに急激に失速していった。「♪何が私に起こったか」の頃にはかなりヤツレてしまっていて見ていてショックだった・・・やがて私のファン心は、御大の肝いりで鮮烈にデビューした石野真子と入れ替わるようにいつの間にかフェイドアウトしてしまった。つまりは乗り換えたのだ。俺を許してくれ。その後に、御大とセブンイレブンのCM曲でコラボしていたとは。そんなに大々的にはCMでは流れてなかったはずだ。78年秋、ちょうど「ローリング30」の制作時期と重なるが、御大サイドからも情報はなかったと思う。ともかく不覚にも気づかなかった。
 伊藤咲子(歌)×吉田拓郎(曲)×松本隆(詞)×石川鷹彦(編曲)のこの傑作をリアルタイムで聴けなかったのは痛恨でありその喪失感は大きい。セブイレブン博多駅前店の前の道路陥没の穴くらい大きい・・・よしなさいっ。すべては伊藤咲子を見限った私の報いなのだ。かくしてこの作品は久しく幻の名曲となったのだった。
 それにしても非売品のCMソングにもかかわらず、この大作ぶりはなんだろうか。松本隆には珍しい青春賛歌のようなさわやかな詞は元気が出るし、御大のメロディーも思い切り陽性のうえに、これでもかとうねりながらドラマチックに展開していく。通常の2曲分はあろうかという長尺メロディーだ。石川鷹彦のこれまたカッコイイギターのイントロも印象的だ。
 後年、伊藤咲子さんが公式ページで、この曲を評して吉田拓郎さんのメロディーが難しかったと述懐しているのを読んだ。なるほど。しかし、伊藤咲子は、そんなことをつゆも感じさせずに、見事な歌唱力で表情豊かに歌いこなしている。聴いたことはないが、おそらく御大の歌うデモテープよりも流麗に歌っていることは想像に難くない(笑)。
 非売品のCMソングなのに、しかも大した勝負CMでもないのに、これだけの力量を注ぎ込む伊藤咲子(歌)×吉田拓郎(曲)×松本隆(詞)×石川鷹彦(編曲)の偉大なるプロの仕事に敬服してしまう。反対に、これだけの大作を非売品のまま放置したセブンイレブンの見識のなさ。なんとかしてくれよ。結局、幻の非売品となったために、オークションでは10万円近い取引物件となった。手が出ねぇぞオーマイガー。幸運にも手練手管で伊藤咲子の熱心なファンの方に音源だけいただいた。今は、伊藤咲子のCDボックスに収録され市販されている。

 最近になって、テレビの特集で、あの頃の伊藤咲子と城みちるは、スキャンダルのようなものではなく、若い二人の切ない純愛だったことを知る。芸能界ゆえの不遇に翻弄された二人だったのだ。申し訳なかった。こうして幾星霜を経て、耳にできた「友達になろう」を忸怩たる思いで聴く。同様に、城みちるのカバーするヘナチョコな「人生を語らず」も味わい深く涙して聴く。青春とは終わりまで厳しいものなのだ。

2016.11/20