ともだち
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
シングル「今日までそして明日から」/アルバム「よしだたくろうオンステージ ともだち」/アルバム「みんな大好き」
永遠のともだち
「ともだち」・・・これを聴くと、「たくろう おんすてーじ」のジャケットが瞼の裏に浮かび、あのアルバムの名演奏、落語ファンが古典落語を聴きこむように何度も何度も聞いたあのMC一言一句が脳裏に広がる。ついでに、あのアルバムを繰り返し聴いていた頃の自分の思い出が溢れだす。何かの点火スイッチのような曲でもある。
まるて童謡のような超絶シンプルなメロディーでありながら、かくも美しく、かくもポップで抒情溢れるメロディーは、まさに天才の技としか言いようがない。
「ともだち」との別れが切々と綴られているこの歌の背景には、71年の広島フォーク村の解散があったと言われる。単身上京しプロになった拓郎は、自分の母体となった広島の音楽仲間たちとの別れは大きなものだったに違いない。
訣別の歌でありながら、この歌はどこか清々しさがあって、聴く者の背中を暖かく押してくれるようなチカラを感じる。何度も言うが、吉田拓郎の歌は、すべて人と人との「距離」を歌っているというのが私見だ。この曲はその濃縮エッセンスで出来上がっているようなものだ。しかし、拓郎は、決して人間嫌いなのではなく、人一倍、情にもろく心優しい人情家の反面、馴れ合いの徒党を組むことで人が自分の心を失ってしまう危険を敏感に感じ取る触覚を持っている。どちらにも流されず、自分の心を守り、また相手の心をも守るために、人と人とのあるべき距離を求めてさまようのが、拓郎の歌のテーマだと思う。たがら訣別の歌であっても、彷徨う私たちに静かな勇気をくれるのだろう。
原曲のミニ・バンドのバージョンは不滅だが、楽曲として反芻するには、スタンダードな公式バージョンが欲しい。しかし、これが意外と少ない。ライブ73のオープニングで演奏されたバージョンなどはアップテンポなロックバージョンであり神のごとき絶品であるが、アウトテイクとなっている。つま恋75で、松任谷正隆のキーボードに満たされた「シンシア」とのメドレーも美しかった。
公式スタジオ音源としては、1997年にセルフカバー「みんな大好き」のバージョンがあるものの、個人的にはいただけない。このアルバム全体が、70年代の楽曲を、LOVE2の勢いを借りて、現代風にアレンジし若い世代に聴かせる・・・というところに主眼がある。しかし、名うてのミュージシャンたちの演奏は聴きやすく見事だが、作品それ自体への思い入れが浅い(高中正義だけは違うが)。例えば、「ともだち」という作品に、心から共感したり感動したりという体験がないまま、ただ演奏とアレンジで巧く聴かせようというあざとさを感じる。考えすぎか。
その点、2006年のつま恋での拓郎バンドバージョンは出色だった。原曲のテイストをきちんと継承しながらも達意の演奏で見事にこの曲をリニューアルさせていた。いよいよ決定的公式盤が登場したかと感激したものだ。なのに、なんで歌詞をトチるかなぁ。「とてしなく」残念だ。と、いろいろ音源をさまよいながらも、ミニバンドとの原曲が、今も変わらぬ温かさをもって佇んでいるのにあらためて気づくのであります。
2015.11/29