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竜飛崎

1974年
作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎
シングル「シンシア」

♪ドラム叩ける仕事見つけたんだぁ

 岡本おさみ「股旅シリーズ」の一作。シングル「シンシア」B面のみ収録という目立たないロケーション、また「竜飛岬」といえば「津軽海峡冬景色」の方が有名だが、そんなことに関係なく、コアな拓郎ファンからの評価は高く、愛でられている一曲だ。B面名曲伝説に恥じない。  凍てつく海峡を挟んで北海道の室蘭を望む青森県の竜飛崎。竜飛崎の寂寥とした漁村と室蘭の鉄鋼の活気のコントラストを描いているのだろうか。
 「どてっぱらをブチ抜かれてしまった」というのは、言わずと知れた青函トンネル。この時は、まだ掘削中だったと思う。しかも、何人もの命が犠牲になった工事だった。日本全体を不景気が覆ってしまった今になると、室蘭も竜飛崎も、また風景は違ってしまっているのだろうか。
 それにしても重厚でチカラの入ったメロディーだ。拓郎のピンと糸を張りつめたようなボーカルが映える。例えば「この岬(みさぁぁぁき)には」のところは、拓郎のシャウトなしには成り立たない。対極にあるようなムッシュのだらしない柔らかなボーカル。この二人のコントラストが見事だ。ムッシュのだらしないボーカルがあるから拓郎の緊張感あるボーカルが際立つ。そしてこの拓郎のボーカルがあるからこそ、ムッシュのボーカルに暖かな味わいが出てくる。まさに峻厳と柔和が見事だ。しかし名曲だが難曲だ。ムッシュは、レコーディングにかなり苦労したらしい。「あれ、北原謙二になっちゃったよ」、というようにいろんな歌手が憑依して難航していたらしい。
 ムッシュがステージで拓郎とかかわるたびに、この曲をライブで演奏して欲しいと思う反面、二人が翁となった今、この難曲を歌えるのか・・・無理はしないでほしいと思ったりもする。

 「吉田拓郎&愛奴」の公式音源が聴けるのは唯一この作品だけだ。ディランの「ザ・バンド」とのステージを観て結成させたバンド。吉田拓郎はヘタクソなバンドだったと冗談で言うが、高く評価していたことは間違いない。事実、この竜飛崎の演奏、素晴らしいではないか。
 吉田拓郎が浜田省吾のヘタなドラムに怒って『広島へ帰れ』と面罵したという記事を週刊誌のライターが書いていた。拓郎はこの記事を怒りをもって否定していた。当然である。浜田省吾は昔からインタビューで語っていた。
 「拓郎さんは、ヘタクソなドラムなのに一度も怒らなかった・・・・ただ遠慮がちに『おい、チューニングだけでもチトやん(河内)に見てもらうか?』とおそるおそる聞いてきた(笑)」ここにこそ吉田拓郎の人品骨柄が見えるというものだ。

2015.10/11