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たえこMY LOVE

1976年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
シングル「たえこ MY LOVE」/アルバム「ONLY YOU」/アルバム「LIFE」

真実が伝わらぬ世界・・そうさボクも不明なファンなのよ

 1976年12月発売のシングル。当時、同級生から「今度の拓郎のシングルは『たえこMYLOVE』っていうんだぜ」と聞いて中学生坊主の私ですらトホホと思ったものだ。
 当時の空気は独特だったかもしれない。「吉田拓郎は、ハードなメッセージソングを歌わなくてはならない」、「拓郎はフォークの原点に還るべきだ」、「そんなMY LOVEなんてチャラいタイトルの歌を歌うなんてケシカラン」、「拓郎は堕落した」「これじゃ歌謡曲と同じ」。・・こういう空気がファン全部ではないにしろ根強く漂っていた。しかも、同月にはフォーライフの屋台骨を揺るがアルバム「クリスマス」も発売され、なーんか期待と違うぞという感じで、フォーライフにも拓郎にも暗雲がたちこめはじめていた頃でもある。
 しかし、この作品を歓迎しえなかった私は、今、心から謝罪したい。こりゃあガチ名曲ばい。フォークだ、歌謡曲だ、というモノサシでは計測できないスケールの成熟した音楽がここにある。フォークもメッセージソングも超えた、拓郎の天賦の才を示す奥行きのある作品なのだということに後になって気付いた。それでも当時のファンの投書の中には「名曲。この歌は私の心のお守りだ」と絶賛しているものもあった。つまり、わかる人はわかっていたのだ。
 雨音の効果音を引き裂くように突然切り込む「た・え・こ・MYLOVE」のドラマチックな導入。大人の色香を漂わせながら余裕たっぷりのバラードを歌い上げる拓郎。・・・うまい。こんなに歌がうまかったか拓郎。
 そのバラードの余韻の中から、「ひぃとぉりぃでぇ」とアップテンポのポップスになだれ込んでいくブリッジの見事さ。サビの「だからたえこMYLOVE」の部分。難解なメロディーではないが、実際に歌ってみるとムツカシイ。というより拓郎の歌い方がどうしてもマネできない。
 そしてバラードで始まりながら、間奏のアップテンポの軽快なカッコ良さに思わず身体が踊りだしたくなる。もう緩急の付け方が見事すぎる。聴き手はもう拓郎のなすがままにあちこち連れて行かれる。
 これには石川鷹彦のアレンジの力も大きいのではないか。石川鷹彦というとアコースティック・ギターの教祖だが、アレンジをするととてもゴージャスだ。ちなみにドゥルルというコーラスも石川鷹彦だ。
 詞も、御大にしては洗練されている。おい。「君の胸をいつもよぎる昔 話し相手はもう要らなかったね」、「涙は昨日枯れてしまって 笑顔は別れのためにあって」などのレトリックが光る。この言葉のうまさが、深いドラマを描き出している。
 81年のアルバム「ONLY YOU」では鈴木茂のアレンジとギターでリメイクされたが、どうしても原曲の質感を超えていないかな。そうそう79年の篠島では、出だしを2回間違えた世紀ハプニングも大切な思い出だ。「♪た・え・こ・マ・違うなこりゃぁぁぁぁ」は、何度聴いても笑ってしまう。しかし、その事件ばかりに気をとられてしまっているが、篠島のビッグバンドの演奏は、秀逸だった。最後にレイチャールズのような絶唱で終わるところもカッコ良かった。
 「若かったころの自由さが」と歌う拓郎が、ちょうど30歳の時の作品だ。今でこそ30歳のアイドルなんて普通だが、この頃、先陣を走る拓郎にとっていかに重く年齢がのしかかっていたかが窺える。
 そうそう「たえこ」さんは実在らしい。誰なんだ。やはりスナックのママとかになっているのか。いみふ。暗雲と書いたが、この作品は当時ヒットチャートにチャートインするくらいヒットした。当時のラジオ等のベストテンでは、「たえこMY LOVE」と「メランコリー」が並んでランクインしていたという誇らしい記憶がある。

2015.11/9