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旅立てジャック

1978年
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎
アルバム「ローリング30」

JACK、この島は本当に沈みそうだぜ

 アルバム「ローリング30」に所収のこの作品は、ラジオ番組「セイヤング」で、レコーディング中の箱根ロックウェルスタジオからの中継で、いちはやく生演奏が披露された。
 拓郎のお気に入りのナンバーで、83年春のコンサートツアー、87年の海の中道でのライブ、91年の男達の詩ツアーなどとステージ演奏頻度もそこそこ高い。ブルースな感じが、たぶん拓郎本人も歌ってて気持ちいいのではないかと推測する。ことに「心には道があるぅぅ・・・」のところのフェイクがなんともイイ。拓郎ならではの魅力がある。ライブでは、R&Bを意識した迫力あるアレンジを突き詰めていく傾向があって、どんどんステージ映えは良くなっていくものの、やはりベストテイクは、「ローリング30」のオリジナルではないか。イントロの泣き出すような徳武弘文のギターが印象的なシンプルな演奏が胸に響く。小品としての暖かさを湛えた原曲の方が、孤独なジャック青年の悲しみがより深く伝わるような説得力がある。
「旅立てジャック」とは、レイ・チャールズのスタンダード曲になぞらえている。レイチャールズといえば、「よしだたくろう オン・ステージ ともだち」の「わっちゃいせい」。深い意味があるかもしれないとレイチャールズの「旅立てJACK」を聴いてみたが、男女の掛け合いで、女「どこかに行っちまえ、もう帰ってくんな」男「そんなこと言わないでくれよ」という会話が延々と続く、ヒロシ&キーボーの「三年目の浮気」かっ!?、拓郎バージョンとは関係がなさそうだ。
 松本隆が描こうとした横浜本牧あたりを舞台としたハーフの青年のドラマもさることながら、「一億人が見せかけだけの豊かさの中、沈みゆく島」のインパクトが強烈だった。当時、このフレーズにしびれたものだった。
 しかし、幾星霜を経て(2013年)あらためて聴くと、その間に、この島にはいろいろな不幸が襲い、今や「見せかけだけの豊かさ」すら、危うい状況になっている。この混沌とした現代にあらためて聴くと、むしろ「だけどジャック、心には道がある」という最後のフレーズが沁みる。その心の道を拓郎の歌とともに探そうではないか。

2015.5/10