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ステラ

1999年
作詞 松本明子 作曲 吉田拓郎 唄 松本明子  

松本、最高傑作だ


 浅田次郎原作のドラマ「プリズンホテル」の主題歌。武田鉄矢が主演だった。ということは武田鉄矢、もしかするとおまえ、イヤあなたが拓郎にオーダーしてくださったのですか。関係ないかな。

 この作品について簡潔に言えば一言で足りる。「完璧」。

 詞・曲・アレンジ・演奏・歌唱。すべて10点、10点、10点、10点、10点とすべてにおいてパーフェクトの旗をあげたい。時は1999年。LOVELOVE全盛時代である。同年アルバム「ハワイアン・ラプソディー」が発表された。しかしオリジナルアルバムにもかかわらず前代未聞、殆どの詞と曲を他人に任せたクレジットを見たとき、「才能枯渇」という不吉な文字が頭をよぎるところだった。しかし、ちょっと前にこの名曲「ステラ」を聴いていたので、これだけのすんばらしいメロディーが書けるなら大丈夫、単に曲を書くのがメンドクサかっただけなのだと安心していられた。

 ついつい軽んじてしまいそうになる松本明子。しかし彼女の詞は、プロの域である。ラッシュアワー、コンビニの帰り道、放課後の校庭の逆上がり、飾り気のない日常の風景に軸足を置いて、純粋な乙女心が描かれている。いや乙女心なんて差別かもしれない。老若男女だれもがしっかり共感してしまうような心根がそこにある。
 そして、そこに優しく、優しくあてがわれた吉田拓郎のメロディーが実に美しいんだよ。
 ♪眠れないこんな夜~ この導入からして心くすぐられるようなメロディーだ。そして静かなれどドラマティックに展開してゆくメロディー構成が素晴らしい。Bメロからの展開が心に響く。

  何にも良い事ないねと
  見上げた星がまぶしい
  見えない明日を探した
  あの日は既に遠い
  欲張りになるほど 悲しいね
  幸せはいつでも微笑みかけてるのに
        ※
  これから何処へ行くのかまだわからないけれど
  退屈な毎日 あせらなくても
  取り戻せるいつかは あの頃の夢を
         ※
  いつか来る幸せ 見逃さないように
  輝き続けよう 夢を抱きしてめて

  詞も曲も互いに絶妙に拠りあっている。特に、この詞の純粋さをきちんとキャッチして輝かせている繊細でハートフルなメロディー。吉田拓郎はやっぱり天才だと私はこの一曲だけで確信する。一緒に小さな星空を見上げたような気分でうっかりするとおっさんもウルウルとくる。これは、90年代の「流星」である。もう勝手に認定する。そのくらい吉田拓郎の煌く音楽センスがここに結集しているといっても過言ではない。

 なのに、なぜだ。なぜ売れなかったのだ。なぜ、最近のラジオでの提供曲投票にすら登場しない。なにより、なぜ吉田拓郎本人までが無かったことのようにスルーしているのか。悲しいかなこの名曲は捨て置き状態で崖っぷちにいる。
 その理由がわからない。例えば
 ①松本明子がバラドルだからか
  →それこそは無意識の偏見だ
 ②吉田拓郎作品の居並ぶ名作詞家陣に松本隆と並んで松本明子が名を連ねるのが嫌だ、しかも50音順だと松本明子の方が先だし、という不満による松本隆からの圧力か
  →んなこと1ミリも考えないだろ、てか意味わかんないし
 ③吉田建がアレンジしているからか
  →(略)

 いずれにしても松本明子がもう一度、渾身で歌うか、拓郎、あなたがカバーするしかない。この崖っぷちの片隅から「吉田拓郎の天才の仕事がココに落そうになっています」と世界に向って叫びたい。
 カラオケに入っていると必ず歌っていたが、あまりのキモさに周囲に迷惑なのでさすがにそういう普及活動は控えることにした。しかし、もし居合わせた居酒屋で「ステラって名曲ですよね」と声をかけてくださる人がいたら、必ずビール一杯をサービスさせていただきます。そのくらいの覚悟がある。どのくらいの覚悟かよくわかんないけど。崖から落っことしてなるものか。

2019.8.15