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僕達はそうやって生きてきた

2001年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「こんにちわ」/DVD/CD「TAKURO YOSHIDA 2012」/DVD/CD「TAKURO YOSHIDA 2014」

好々爺のロック来たれり・・・か

  吉田拓郎にロックンロールは必要不可欠だ。アコースティックギターを抱えて椅子に座った弾き語りのフォーク・スタイルは絶妙だが、これが立ち上がってテレキャスターを抱えてバンドとノリノリで歌うロックンロールの立ち姿がこれまた絵になるのだ。両方とも絵になる歌手というのは極めて少ない。ロックバンドでノっている小椋佳は想像つかないし、ハーモニカホルダーつけて座っている矢沢永吉というのもなんか変だ。
 というわけで吉田拓郎は、
      「立てばロック、座ればフォーク、歩く姿はカリスマアイドル」
 ということで、どうだ?>どうだと言われてもな
 さて近年ステージで目立つロックンロールナンバー「僕達はそうやって生きてきた」。2001年のアルバム「こんにちわ」の収録だが、2006年のつま恋でのライブ初演以来、定番化しつつある。そして、2014年ではいよいよ本編ラストナンバーに昇格した。
 清々しく、いい作品であるが、個人的には、どうもしっくりこない。この微妙な違和感は何だろう。・・・たぶん詞だ。
「あきらめちまうと後悔するよ 今あるチカラで頑張ってみようよ」「苦しいっていえば楽になるよ 大切なのはこれからなんだよ」
 という聴き手を励まし、元気づけるフレーズの数々。・・「それが何でいけないの?」、「このフレーズに勇気づけられたのに!」というファンもたくさんいて、怒られそうだ。ホントにすまん。
 しかし、思い出してみよう。そもそも吉田拓郎は、聴き手をこんなやさしく励ましてくれるような人格者ではなかったはずだ。おいおい。例えば昔、ラジオで、自分から、悩み相談のハガキを募集しながら、面倒になって「もう、おまえら自分で何とかしろ」と放り出して、何の関係もないエンガチョな話でガハハハと盛り上がったりするような、それは、それはヒドい人なのだ。ヒドい人がヒドいことを歌って吉田拓郎のロックが成立する。
 そんな人が、こんな温かい励ましのフレーズを書いたのは、当時の時代背景からして、明らかに、キンキやシノラー、LOVE2周辺の若者を意識していたに違いない。彼ら世代に向けて歌っているのであって、たぶん私たちおじさんおばさんは関係ない。そう思うと、この作品の優しいおじさまモードは、どうにもしっくり来ない。やはり吉田拓郎は聴き手に暴言吐いてナンボ。拓郎のロックは、やはり何かにものすげー怒っていたり、おねーちゃんにひたすら突撃する、そういう不良なものでなくてはならない。
 しかし、それでもこの作品は、御大が相当に気にいっているということは、御大も変わり始めたのかもしれない。ファンの私もいつまで依怙地になっている場合ではないのかもしれない。「好々爺」になった御大は、おだやかな「好々爺のロック」とでもいうべきものを実験中なのかもしれない。心しなくてはならない。

2015.9/27