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そうしなさい

1992年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「吉田町の唄」

そうします、元気になります

 「もぬけの殻でもいいじゃない」・・・拓郎の硬質の歌声がアカペラでいきなり入り込んでくる。剣道の試合でいきなり懐に竹刀が入ってくるようなインパクトあるスタート。胸鷲掴みにされる。
 最初にアカペラでボーカルが切りこんでくる技は、やはり天性のボーカリストにしかできないことだ。「いきなりアカペラ」のこの技は、他に「君のスピードで」「パーフェクト・ブルー」「トワイライト」で聴くことができる。これらの作品に、この「そうしなさい」を加えて、「いきなりアカペラ四天王」と名付けたい。何の意味があるんだ。
 この作品は、拓郎得意の典型的なメッセージソングだ。拓郎ファンが、落ち込んだときに、拓郎にこんなふうに元気づけてほしい・・と思っていることが、そのまま詞になっている。しかし「そうしなさい」・・拓郎は他人との距離について常に気をもんでいる人だがら、他人に対してこういう命令形の口調はなかなか使わない。そこから察するに、これは他人ではなく、さまよえる自分に対して、言い聞かせている詞でもあるのではないか。

 「新しいことを始めよう」「元気を出せば見えてくる」

と鼓舞するフレーズが耳に残る。
 同時期にステージだけで歌われた傑作「後悔しない」でも「悲しくなったら元気を出そう」というフレーズが繰り返される。「元気を出さなきゃ」というのが拓郎の当時の切実な心情だったのか。大切なキーワードだ。
 この作品を含んだアルバム「吉田町の唄」は、名曲の宝庫でありながら、期待されたほどのセールスや高い評価は得なかった。当時(1993年)の「ぴあムック」のインタビューで拓郎は、アルバム「吉田町の唄」について自信作でありながら残念な結果となった無念さを珍しく率直に語っていたことがあった。というわけで、この作品の発表後(1992年8月発売)も、拓郎の苦難の旅はしばらくつづく。
 しかし歌詞のとおり、拓郎は、バハマの外国ミュージシャンとの音楽活動、そして、「LOVE2あいしてる」でのテレビへの出演と「新しいこと」に挑戦を続けた結果、音楽家としての充実した50代以降を手にするのだった。まさにこの「そうしなさい」の歌詞を身体を張って実践してみせたのだ。
 ということでこの作品も是非再評価を望みたい。当時、この作品も地味なテレビCMに使用されたことがあったが、今度はもっと強い押し出しで、どこかに・・・と涙ながらにお願いしたい。

2015.9/23