SORA
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
シングル「あいつの部屋には男がある」
ネオン透かして見上げる空に
シングル「あいつの部屋には男がいる」のB面のみの収録。ということでこの曲も幻のB面伝説のひとつとして鎮座する。以前、拓郎ファンの私設HPにもこの曲のタイトルを冠したセンス抜群のサイトがあったりして、コアなファンのフラグのイメージもある。
アルバム「マラソン」と同時期の録音なので、王様バンドの油の乗り切った演奏と歌い込んだ拓郎のボーカルによって艶のある作品に仕上がっている。ここでも拓郎のボーカルの張りがたまらなくいい。
「SORA=空」
歌手が、空を歌う歌は多いが、だいたいどれも自然の美しさや壮大さを湛える大袈裟なバラードになりがちである。しかしこの曲は、実にシンプルなバンドサウンドで出来上がっている。印象的でカッコ良いリズム・ビートと咆哮のようにうねるギターが印象的なロック。ちょうど太いクレバスで描いたラフなスケッチ画のようだ。それでいて十分にインパクトがある。
おそらくは拓郎の「こんな感じで」という感覚的な注文を、バンドがしっかりキャッチしてサラリと実現してみせた、そんな「あうん」の呼吸を感じる。
「空」といえば、拓郎は、「若いころは空なんか見ていなかった。いつも楽しいものが落ちていないか、下ばかり見て歩いていた」と述懐する。「私生活はキースリチャーズ」と豪語していた、そんな頃だ。そもそもA面の「あいつの部屋には男がいる」からして、バブリーでどこか退廃した香りが漂う。「大自然の大空」というよりも、猥雑な夜の街をさまよいながら、ふと夜明けに見上げた「空」・・・そんな感じだ。
実際にもスキャンダラスな日々を送り、ほどなく離婚・つま恋85年での活動停止へと至る当時の拓郎の道すがら。「行きましょうか 行きますか 生きましょうか 生きますか」の問いかけがどうしようもなく孤独だ。
「SORA」は「空」そのそものというよりは、さまよえる自分をも許容してくれる大きなものの記号だったのかもしれない。
2016.2/20