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白いレースの日傘

2003年
作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎
アルバム「月夜のカヌー」/DVD/CD「TAKURO YOSHIDA LIVE 2012」

時間と時間を結ぶ日傘を揺らして

 この作品が収録されたアルバム「月夜のカヌー」は、その後のライブで「花の店」ばかりが目立っていたが、ようやく2012年のライブでこの曲も、ステージで陽の目を見ることになった。
 小品ながら光ある一曲。とにかく、このイントロを聴くだけでだけでウズウズして、人が見ていなければ踊りたくなってくる。ひとつひとつの言葉がスイングしているようなリリカルなメロディー。特に「二人の夏がもう帰ってこないことも」あたりのメロディーの乗せ方と歌い方が弾けるようで気持ちいい。LOVE2の祭りが終わり、55歳のひとりのミュージシャンに戻って、これだけの曲をサラリと作ってしまうとはさすが天性のメロディメーカーだぜ。
 おそらく多くのファンが感じたように、岡本おさみの手になるこの詞は、「蒼い夏」の幾星霜を経た続編を思わせる。セルフカバーアルバム「Oldies」の「蒼い夏」の弾けたバージョンを聴くとその感がさらに強くなる。夏の砂浜。「浜日傘」と「白いレースの日傘」。夏の時代が終わり穏やかな「秋」を受け入れようとする二人。長いこと拓郎を愛しながら生きてきたファンは、自分自身の歴史に重ねあわせ実感することができる。聴き手の「共感」もこの作品を支える大切な要素だ。
 昨今、世の中には、長年を連れ添ったパートナーとの関係を歌う歌は多いが、どれも「長い間尽くしてくれたキミのすべてにありがとう」みたいなベッタリとしたキモイ歌ばかりだ。いや、あくまで私の感想ね。この歌にはそういう臭いがないところが魅力だ。
 「そうさ求めなければ」「そうさゆずりあえれば」。連れ添ったパートナーであっても、そこに二人のあるべき距離を見つめ、それぞれが心に自分だけの小部屋をもっている。それは「秘密」ではなく「あきらめ」でも「溝」でもない。その距離を認めるからこそ、長きパートナーでいられる。そういう人生の妙味を岡本おさみはさりげなく夏の景色の中で表現し、拓郎は青空のようなメロディーにのせる。よく読むとある種の寂しさをも湛えた言葉を、スコーンと明るく爽快に歌い放つのだ。
 2009年のNHK-BS「大いなる明日」でリハのでこの歌を歌っている様子が映ったがON AIRでは残念ながらカットされてしまった。2012年のライブでの「虹の魚」とブリッジしたノリノリの演奏も良かったが、2009年のビッグバンドの演奏がたぶんベストだったはずだ。ちゃんと聴いたことはないが。間違いない。

2015.10/10