uramado-top

親切

1972年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「元気です」/アルバム「TAKURO TOUR 1979 vol.2」

君との距離感という小宇宙で

 拓郎の歌の特徴として「字余り」「饒舌」「早口」とよく言われるが、この歌はそれらが佃煮になってイイ味を出している模範演技といってイイ。意気軒昂にたたみかけ、溢れくる言葉たち。 かつてハウンドドックの大友康平は、拓郎を評して「ラップがブームになる遥か前からラップを先取りしていたんだよ。しかもラップでありながら見事にメロディーに乗せているから、ラップよりも凄げぇよ。」と語っていた。大友康平よくぞ言った。愛がすべてだ。
 ラップのはるか先を行き、ラップをはるかに越えし音楽的才能こそが吉田拓郎である。文句のあるラップ愛好者はいつでも来いっ!、・・・すぐにお詫びするから。
 「友との訣別」を歌ったこの歌は、発表当初の弾き語りバージョンと後にアルバム「元気です」に収録されたスタジオ盤の2パターンがある。両者はメロディーラインも微妙に異なるし、曲としての様相もかなり違う。弾き語りは、思い切りシャウトし「訣別」にあたっての相手への「怒りと悲しみ」をぶちまけているが、「元気です」盤は、音楽的にポップな仕上がりになっていて、怒りもクールダウンしたのか、相手を皮肉るシニカルなトーンに落ち着いている。
 ライブ演奏は名演奏が多い。75年つま恋の松任谷グループとの演奏では、「元気です」のポップなバージョンで歌われたが「♪ああ、またボブディランの話かい」のところだけ「い・や・だ・ねぇぇぇぇぇぇ」と絶叫して驚かせたこともあった。
 ライブでは、ジェイク・コンセプションのフルートが美しい79年のツアーバージョン(「TAKURO TOUR79 vol.Ⅱ」収録)など、バンドサウンドが多かったが、92年の弾き語りの「アローンツアー」では、オープニングで当初のままに歌われた。拓郎の「老い」を予感しながらこのステージを観に行った泉麻人とみうらじゅんがこの「親切」を聴いて「すげぇ、拓郎は現役だ」と打ちのめされたという話もあった。やはり弾き語りの命脈も強く生き続けている。というか最高峰だろう。おさらく誰も完全にはコピーできないこの弾き語り。拓郎本人でさえ70年代に自分はどう弾いていのかどうしてもわかんないというこの技。無形文化財になっても驚かない。
 この歌のもうひとつの特徴は、詞に現れた拓郎のエッセンスだろう。かつて吉田拓郎の歌はすべて、人と人との距離感を歌っている・・・私が勝手に独断したが、その核心のような歌だ。
 「心の中にまで土足でハイ失礼」「僕はまだまだ時間が要るんだよ、君のこと知ってるなんていうのもつらい」「信じてますなんて とても言えないよ」
 距離感を持たずに心に踏み込んでくるヤツは決して許さない拓郎。しかし、吉田拓郎は決して人間嫌いではないし、厭世家でもない。あれだけの愛の歌を作れるのだから。誰よりも人を愛し信じてしまう、だからこそ、ヒトに苦しみ、ホントの距離を求めてさまよう、ここに拓郎の世界のひとつの核心があるのではないか。そうそう「今日から僕は家にいることにしよう たばこの煙でも眺めていよう」・・・家好きの拓郎という本質も顏を見せている。
 明石家さんまのギャグで、「心の中にまで土足で入ってくる」って歌があるけど、最近は土足どころかスパイク履いてくるヤツがいて痛くてかなわんわ・・・というのがあり、結構好きだ。
 そうだ、「人生を語らず」と同様に感頭詞(?)の「え」が大切だ。「え、面倒臭がり屋の僕なのに、え、どうしてなんだろう」。これを意識するとあなたのカラオケライフがより豊かなものになりましょう。大きなお世話だ。

2015.10/10