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シリアスな夜

1991年
作詞 石原信一 作曲 吉田拓郎
アルバム「detente」

すべての歩道橋フェチに捧ぐ

 岡本おさみ、松本隆などの作詞家と石原信一が決定的に違うのは、石原信一は、拓郎の伝記「挽歌を撃て」の執筆を通じて、「吉田拓郎」の人となりをかなり深く研究し尽くしているところだ。その研究成果に基づいて「どういう詞を、どう歌えば拓郎がカッコよく映えるか」という視点で常に詞を書いている。深く掴んだ拓郎のキャラを主人公にして、まるで映画のようなドラマを仕立てて作品に仕上げる。この1991年のアルバム「デタント」に提供された石原の詞である「裏窓」もこの「シリアスな夜」もこうして作られている。

 深夜の歩道橋の上で、ふとしたはずみで抱き合ってしまう男女。お互いに眠っていた恋心が暴発してしまう。抱きしめたまま、当惑する男の眼に映る「夜空の満天の星」、そして歩道橋から眺める車の流れ。「白いヘッドライトは東へ赤いテールランプは西へ」。実にウマイ設定と情景描写だ。
 話はそれるが、中島みゆきの大ヒットシングル「地上の星」のカップリング曲「ヘッドライト・テールライト」は、ここからインスパイアされたのではないかと思ったりするが、根拠は全くない。妄想か。
 「歩道橋で君を抱きしめて一体どちらへ運命をころがす」。 石原信一は、スリリングでスキャンダラスな状況に主人公≒拓郎を置いているが正解だ。このドラマは「艶のある男」が歌わないとサマにならない。拓郎が歌うことで、真夏の汗ばむ歩道橋の二人の困惑や危うさといった状況が鮮やか描きだされている。
 これは言ってみれば石原信一盤の「歩道橋の上で」だ。この17年後、岡本おさみの手になる、これも名曲「歩道橋の上で」では、初老の男はひとり歩道橋で携帯を握り、しみじみと蔦温泉の湯治に来ている彼女と心を通わす。名曲「歩道橋の上で」は「旅の宿」の続編と評されるが、「歩道橋」つながりでこの「シリアスな夜」と結んでみるのも面白い。対照的な二曲だ。「動」と「静」、「艶」と「枯れ」。言い過ぎかな。
 私は、岡本おさみの「歩道橋の上で」の方が、今は心に沁みる。歳をとったからか。いずれにしても、町を歩いていて歩道橋があると意味もなく上ってみたなくる。私が歩道橋にのぼったところで、石原系であろうと岡本系であろうと何のドラマも置きやしないが。いずれにしても吉田拓郎は「歩道橋モノ」ともいうべきジャンルを確率することになった・・・って、何だこの結論。

2015.9/21