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制服

1973年
作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎
アルバム「伽草子」

東京駅地下をさまよう超絶のソウルに

 もし「吉田拓郎・泣ける歌総選挙」があったとしたら「外は白い雪の夜」、「唇をかみしめて」などが当確なのだろうが、私はこの「制服」に一票を投じたい。
 「集団就職」なんて今の人にはワカラナイという評をよく見かけるが、それでもこの歌に宿るソウルは今も不滅だ。時が流れ、形こそかわっても、私たちの働く世の中に満ちている悲しみはそのままだからだろう。東京駅地下道を引率されて行く集団就職の制服の娘たち。もうこれは、市場にひかれていく「ドナドナ」なみに悲しい・・って牛かよっ! 少女たちとすれちがいざまに彼女たちに思いを馳せる岡本おさみのこの詞はまさに神業だ。
 例えば「妙に腰の低い男」。この一言だけで、映画「ああ野麦峠」に出てくるような、上司にこびへつらい、目下のものには暴君に成り果てる番頭の姿が浮かぶ。
 「家族の泣き笑い」「苦い給料」「日曜日だけを待つ暮らし」「騙された男」・・・短い言葉にもかかわらず少女たちが経験した故郷の家族との別れ、これから経験するだろう厳しき現実といった情景がはっきりと像を結ぶような見事な詞だ。だからこそ切ない。そして、それらはどこかで私たち自身の姿とも繋がっている。
 そしてこの詞が、拓郎のブルージーなメロディーと入魂の歌唱によって逸品に仕上がっている。もともとは新六文銭をバックに歌われた作品だが、アルバム「伽草子」では弾き語りでレコーディングされ、以後、弾き語り定番曲として活躍してきた。「僕はこれから大阪へ行くところ」・・・拓郎はかつてライブでは、会場にあわせて「大阪」を「名古屋」「札幌」とご当地バージョンで歌っていたようだ。 いかにもフォーキーなイメージがあるが、これはもう極上のブルースだ。2009年にインペリアルから発売された拓郎のトリビュート・アルバムで下地勇という歌手がブルースバンドで演奏したカバーがあるが、この作品のソウルを見事に再認識させてくれた。下地勇・・素晴らしいのだが、誰なんだ。
 拓郎自身も1988年のSATETOツアーで、この歌をバンドで演奏したことがあった。弾き語りも素晴らしいが、胸を突くようなドラムとドラマチックなピアノが、よりこの歌の情景を深く描き出し、拓郎のボーカルを引き立たせている気がした。ジャンルを超えて、これよりも凄いブルースがあるもんかという気にさせてくれる。

 彼女たちを振り返って見送る「僕」は、ありっけたのソウルと愛をこめて歌い上げる。圧巻だ。彼女たちの悲しみに共感し、無言のエールを送ってくれている僕がいる。救いのないこの歌の世界に、小さな灯りがともるかのようだ。
 そして、忘れてはならないのは最後のハーモニカで奏でられる「故郷の廃屋」の見事さ。この「故郷の廃屋」は井沢八郎の「ああ上野駅」の間奏でも使われているがメロディーの流れからすると「唐突な引用」なのに対して、この「制服」では、この歌のドラマがまるで凝縮するかのごとく見事に作品と一体化して、この名曲を締めくくっている。吉田拓郎の卓抜した音楽センスを感じずにいられない。八郎VS拓郎。拓郎に一本。何の勝負だ。
 とにかく不滅の名曲に一票。

2015.11/21