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パーフェクト・ブルー

1981年
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎
アルバム「無人島で・・・」

血まみれの鳩につつかれる憂鬱に

 アルバム「無人島で・・・」が発表された時のインタビューで、拓郎は、松本隆との共作については、拓郎が詞のタイトルとアイデアを決めてオーダーを出したと語っていた。
 というわけで、この作品は、拓郎が、「松本ぉ、『パーフェクト・ブルー』というタイトルで、とことんブルーな詞を頼む!!」とオーダーし、松本隆が「ハイ、喜んで。」と作詞したことに間違いない。チェーンの居酒屋か。かくして「気分は ぶるう とにかく ぶるう  ありったけ ぶるう」というトコトン、ブルーな作品が出来上がった。
 「憂鬱」がテーマであるにしても、詞の情景はかなり悲惨だ。女性にソデにされ、泥酔してマネキンに話しかけ、タクシーの中で「運ちゃん、オイラを未来へ連れてってぇくれよぉぉぉ」と騒ぐ・・・横山やすしか。
 そして極めつけは、「傷ついた鳩に突っつかれる」「驚いて投げ捨てた鳩が死んでしまう」という不幸の連鎖のところだ。こんな悲惨な詞は聞いたことがない。「西岡たかしと五つの赤い風船」に『血まみれの鳩』という作品があるものの、鳩を平和の象徴としてシンボライズしたものだが、こっちは、ホントにそこらの本物の鳩に突っつかれるのだ。突っつかれるのも辛いだろうが、それを聴かされる方もたまったものではない。なので個人的な感想だが、なかなか詞の世界に感情移入をしにくい。

 この悲惨な詞が作品として成り立ったのは、吉田拓郎の見事なボーカルをはじめ音楽サイドのチカラだろう。ライブではともかく、スタジオ録音で拓郎がキレイにシャウトしている作品というのは、そんなに多くはない。そんな中で、これは出色のシャウトだ。ザラついた拓郎の声の質感の魅力もよく表れている。
 というのも、初演がスタジオ録音のアルバムではなく、1981年の体育館ツアーで、あり、ツアー終了直後にスタジオでレコーディングされているからではないか。ツアーでシャウトが練り上げられ、磨き上げられ、そのイキのいいシャウトがそのままスタジオで瞬間冷凍のように保存された感じだ。そこにこそこの作品の価値がある。
 また悲しくも迫力に満ちた拓郎のボーカルに寄り添い、一打一打、心の奥底まで打ちのめすような重たいドラム。ライブの時にはなかった、ジェイク・コンセプションのサックスがまたもの悲しさを加え、狂おしいほどの絶品のバラードのサウンドになっている。
 この名演ゆえに、私ごときが天下の松本隆に申し訳ないが、もうちょっと詞は何とかならなかったのかと不遜ながら思ってしまう。例えば、「鳩」ではなく、せめて「天然記念物のトキ」にするとか。おい。

2015.9/13