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おろかなるひとり言

1971年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「よしだたくろう オンステージ ともだち」

青年よ、フォーク・ロックの丘を登れ

 少ないながらもいろいろなファンの人の声をリサーチすると、この作品は「好き率」がかなり高く、拓郎ファンの隠れたスタンダードなのではないかと推測している。ちょうど学校でいえば、地味で目立たないが、とてもイイ奴でみんなから慕われているクラスメートみたいな作品だ。例えが変か。サザンオールスターズの原由子が拓郎ファンで、特にこの作品が大好きで、拓郎の話が出ると「丘をのぼってぇ」といみふに歌っていた。原由子が変わってるだけかもしれないが、人々の心をとらえてやまない一品だといえる。
 1971年の伝説の名盤「よしだたくろうオンステージ ともだち」。新宿厚生年金会館でのマンスリーコンサートの一曲目を飾った。マンスリー・・・毎月演ってたのか。最近の御無沙汰を思うとまさに隔世の感がある。それは仕方ないとして。
 シンプルな言葉を丁寧に言い聴かせるかのように歌われる。簡単な作品のようだが、実に詞が深い。哲学的でありながら抒情的な面も併せ持った詞でもある。名作と言っていい。「人は彼らの思うまま人は彼らの道を行くしかも人は目をつぶり」「俺は生まれてこの日まで俺の道しか見ていないしかも道はまだ遠い」・・クールに人々の営みを見つめながら、自分の内側にも思いを運ばせる。そして「俺は急いで降りて行く・・・この足で」とあるようにシニカルに傍観しているだけでなく、その人々の隊列に戻っていく自分を描いて締めくくる。人々→自分の心→そして人々の中へ。こんな視点移動をする詞は他にはない。これが拓郎の大切なエッセンスだと思う。
 拓郎はこの素晴らしい詞を学生時代、自動車教習所の退屈な学科の時間に書き上げたという。御大、そういうことなら、もう一度教習所に通っちゃくれまいか。目黒の日の丸自動車教習所あたりどうだろうか。近いぞ。
 シンプルで弾き語りの教則本のようなイメージの作品だが、74年の愛奴とのコンサートツアーのオープニングでド派手なロックンロールになって転生し人々を驚かせた。しかもライブのオープニングに突如疾走するかのごとく。ちょうど地味で目立たないクラスメートが夏休み明けに、バリバリの不良になってバイク集団で学校に乗り込んできたみたいなオドロキだ。青山徹と町支寛二のギターに浜田省吾のドラムがさく裂。誰も絶対マネできない原曲を崩した拓郎の絶妙な歌い回し。ああ、なんてカッコイイんだろうか。たまらん。
 拓郎は2001年にセルフカバーアルバム「Oldies」を作るとき、この愛奴によるロックバージョンの「おろかなるひとり言」をカバーしようとしたらしいが、どうやってもあの質感が出なかったので断念したと語っていた。テクニックを超えた情念が拓郎にもあのバンドにもあったということなのだろうか。音楽の神様が降りてきて、ホントにボブ・ディランとザ・バンドになっていたのだと思われる。幸運にもミュージックフェアで映像が残っていて、ライブの様子が偲ばれるのがありがたい。ホントのライブはもっと凄かったという話もあるが。 公式化切に希望。

2015.10/4