uramado-top

俺を許してくれ

1990年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
シングル「俺を許してくれ」/アルバム「176.5」/アルバム「18時開演」/DVD「90 日本武道館コンサート」

御大はただ一人、俺達も許してくれ

  1990年1月発売のアルバム「176.5」所収でシングルカットの勝負曲。拓郎を深く愛するが故に、あえて当時の気持ちを正直に言わせてもらう。その前のアルバム「マッチベター」、「ひまわり」とコンピュータ打込みでトホホになっていた私は、この作品でようやく久々の名曲に出会えたと感激したものだ。
 発売の2か前月から、89-90「人間なんて」というコンサート・ツアーが始まっていて、この曲は未発売の新曲でありながら本編のラストを堂々と飾った。初めて耳にする曲でありながら観客も納得していたはずだ。このコンサートは、拓郎には珍しい回顧色の強いコンサートだったが、この自信の新作があるからこそ、拓郎も懐かしいモードにあえて踏み切れたのではないか。
 自分の心根、そして自分から見た社会への苛立ち、悲しみが、掘り下げられて歌われている。拓郎の魅力を再確認できた一曲だった。「この世を去っていく人々の愛情」「家族を乗りこえたけれど」とは1,2年前に亡くなられた御母堂のことだろうか。両親が二人とも亡くなり、ある意味で「家族」を乗りこえたということなのだろうか。最近の「すばる」のインタビューで姉と一緒に母の最後の介護をし看取った時の話があり、その当時は万感の思いがあったのかもしれない。あくまで邪推だ。
 「人間が走り争いが起こる。美しい夢は唇で枯れ果てる」詞だけ読むと絶望的だが、拓郎歌い方は説得的で言葉にこそ出さないが、そんな世の中でたまるかという確かな意思が聴き手に伝わってくるのが嬉しい。
 「心が痛い 心がつらい」と繰り返すサビも心にしみるが、身をよじって心を絞り出すように歌われる「この命ただ一度 この心ただひとつ 俺を許してくれ 俺を許してくれ」のところが白眉だ。吉田拓郎、屈指の名フレーズだろう。このフレーズを支えに、それぞれの厳しい極北の日常を行こうではないか、同志諸君。
 コンピュータ打込みもこの曲に関しては気にならない。後年、あの老舗サイト主催者が、カラオケでこの歌を歌ったとき自分で「シュッ!!」とコンピュータの効果音を入れていて感心した覚えがある。それくらい打ち込みがなじんでもいる。反面で、当時のビデオで残された武道館のライブバージョンの生バンド演奏の迫力も捨てがたい。
 どちらの演奏がベストか迷っているそのうちに、2009年のビッグバンドのライブで打込みのアレンジをベースにバンドで演奏するという決定版が出た。惜しむらくは、90年武道館バージョンにあった最後の鎌田清のドラムソロ。同様に2009年のバージョンで島村英二のドラムソロが欲しかったなあ。20年間も待ったけれど、拓郎本人がよくこの作品を思い出してくれたものだ。CDにもしてくれたおかげで永遠に残ろう。

2015.10/4