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大きな夜

1972年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「よしだたくろうオンステージ第二集」

ひとりぼっちの夜に

 1972年12月にエレック・レコードから拓郎に無断で発売された「オンステージ第二集」に収録されている。ということは1971年の夏の渋谷ジャンジャンのライブで披露されたことになる。言うまでもなく拓郎初期の作品だ。
 拓郎が「夜」を歌った歌は多い。いや、他のシンガーも多いのかもしれないが、いまさらその確認のために小田和正や長渕剛を聴くのもなんなので、たぶん多いと思う。
 「どうしてこんなに悲しいんだろう」は「おんなじ夜を迎えてる」悲しみを歌う。「なぜか悲しい夜だから」とフォークビレッジのテーマは毎夜ラジオから語りかけた。そして星を数える男を歌う名曲「流星」。東京の夜が、おまえなんか消えちまえと語りかけてくるという「東京の長く熱い夜」など枚挙に暇がない。どの歌も「夜」=「孤独」=「寂しさ・悲しさ」が深く刻まれている。
 この「大きな夜」は、これらのエッセンスのような歌ではないかと思う。「夜」そのものを対象に歌っている。おそらくは「あふれる愛の中で育った」という広島を出て東京に来てたった一人。その一人がシビアに感じられるのが「夜」なのだろうか。
   「大きな夜につつまれて僕はなぜだかこわかった」
   「僕はひとりがこわかった 何かが僕を追ってくる」
   「夜よお前は今日もくる 夜よおまえは明日もくる」
 上京当初に「夜」を寂しく感じるのは、ホームシックのせいもあるのかもしれない。しかし、歳をとっても節目で「夜」の唄が出てくるというのは、それだけではない。誰も理解されない佇立するような孤独な心情の現れなのではないかとも思う。
 ともかくこの作品は、一人でギターに向かう青年拓郎の姿が浮かぶようだ。メロディーの美しさはやはり非凡だ。ただ、やはり少し冗長だし、習作のような香りもする。もっと推敲して完成品にするつもりだったのかもしれない。このライブの作品全般に言えることだが。
 拓郎がこのライブの無断発売に怒ったのは、自分のネタ帳を暴露されたことだったからではないだろうか。時間をかけてゆっくりと再構成し練り上げて育っていく歌たちの「種子」が曝け出されて台無しになったしまったことへの怒りだったのではないかと思う。
 コアなファンであれば、そりゃあ未発表音源もネタ帳もすべて聴きたい、すべて知りたい。しかし、そこには単なるマニアだからというだけではすまないファンとしての矜持というものもあるような気がする。自戒。

2015.10/4