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狼のブルース

1978年
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎
アルバム「ローリング30」/アルバム「TAKURO TOUR 1979 vol,2」/アルバム「王様達のハイキング IN BUDOKAN」/DVD「吉田拓郎 '79 篠島アイランドコンサート」/ DVD「'82 日本武道館コンサート 王様達のハイキング」

ライブでの疾走感が命与えるロックンロール

 アルバム「ローリング30」所収のこの曲は「暴走族」を歌った作品だ。当時、なぜ拓郎が暴走族の歌を歌わにゃならんのか、その辺は矢沢永吉あたりに任せとけばいいじゃないかと個人的に違和感があった。随分立って知り合った拓郎ファンは、同世代だったが、かつて若いころバリバリでケンメリを乗り回して、深夜放送から帰宅中の拓郎の車を追走し、深夜の東名でデッドヒートを繰り広げたという。いやぁ物騒だが、これがホントの「追っかけ」だ。拓郎も後にラジオでこの時のことを語っていたから事実だし忘れられない思い出なのだろう。こういう歌のニーズもあったのかとしみじみ納得した。
 拓郎は、このアルバムのインタヒューで、「スピードだよ。オレ今スピードにこっているんだよ。『明日なき暴走』ってやつ」と語っていた。フォーライフの社長業のストレスをこの暴走で晴らしていたのかもしれない。当時の拓郎求めていた気分でもあったのだろうか。
 もうひとつは「暴走族」がテーマだが、詞が松本隆なのでなんかそこそこ限界がある気がする。「機械は人を裏切らないさ。涙で心を錆びつかせない。」という詞なんて蒲田の町工場の熟練の職人のおじさんのつぶやきのようだ。詞の微妙な時代遅れ感があって「暴走族」というより「カミナリ族」の詩ではないかという気もする。また「歌は暴力だ」というテーマを意識していた拓郎のボーカルも、レコードでは、なんとなく作為的な感じがしないでもない。アルバム「ローリング30」で聴いたときは、いろいろ複雑な思いがあった。
 しかし、ともかく、ライブである。この作品が光を放つのはとにかくライブである。手近なところでは、篠島のビデオ。オープニングの「ああ青春」が終わって、「朝までやるぞ」のアジテーションで燃え立つ観客。地鳴りのような島村英二のドラムに先導されてそのまま観客を引きずり込むハードなロックとして「狼のブルース」が登場する。これがもう素晴らしい怒涛のロックンロールなのだ。「暴走族」も「松本隆のイマイチ感」もすっとんで、ひたすら観客を立てノリで打ちのめす。もうカッチョイイったらありゃしない。
 そして、3年後の82年の「王様達のハイキング」の「秋」ツアー(ビデオ発売されてないやつね)では、さらに演奏が練りこまれ、間奏では、ギターの青山徹とともにギター型のキーボードを下げた中西康晴がステージ中央に躍り出た。そこでの青山とガチのバトルを繰り広げる。そらぁスリリングな演奏だった。
 間違いなく、この作品は、バンドによって引き立てられ、生かされていった作品の典型だろうと思う。

2015.9/27