おいでよ
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「大いなる人」、アルバム「TAKURO TOUR 1979 vol.Ⅱ」
ブルースに抱擁されたかった日々
1977年発表のアルバム「大いなる人」に収められた。このアルバムの発売時、拓郎は、フォーライフの社長として精力的にマスコミのプロモーションに動き回った。フォーライフ再建業務の一環だったのかもしれない。さすがにテレビこそ出演しなかったが、アルバム発売日の近辺では、ラジオ番組欄で連日「吉田拓郎」の文字が踊っていた。ラジオ番組でこのアルバムをプロモートするときに、拓郎は必ずシングルカットされた「カンパリソーダとフライドポテト」とともに「おいでよ」を流した。「おいでよ」がこのアルバムで一番好きな曲だと明言していた。本人の言葉によれば、これがこのアルバムのベストソングということになる。
「今はまだ人生を語らず」でいえば「僕の唄はサヨナラだけ」にあたるブルースの系統曲だと語っていたが。あの稀代の名曲「僕の唄はサヨナラだけ」との距離はいささか遠い気がするが。身を削るようなシリアスな別れを歌いこむ「僕の唄・・・」に対して、「おいでよ」は、戻ってきた恋人を抱擁するようなゆったりとした余裕がある。「僕の部屋には小さいけれど君が旅立つ何かがあるよ」この余裕がなんとも心地よい、癒されるという評価もあろうが、反対にこの曲を緊張感のないものにしている気もする。これがこの時の拓郎の心情・・・厳しすぎる社長業の反動なのか。
ブルースを歌いたかったと語るように拓郎のボーカルには、心に沁みわたる様に歌いこもうというソウルがこめられている。アレンジャーの鈴木茂は、拓郎の音楽的なルーツであるR&Bとかモータウンとかのサウンドを殆ど聴いてないというので、拓郎は鈴木茂に山のようにレコードを聴かせて説得したということだ。
何度か述べたように、このアルバムの鈴木茂のアレンジは、実に成熟してマイルドでゆとりと奥行きがある。しかし、唯一、「帰ればもとままさ 時計もあの時のまま」の後のブレイクというか小間奏。これが、トホホ。ここは中華街かっ!。鈴木茂も随分じゃないか。拓郎はワンタンが大好きで、ライブ前に楽屋で出前をとって食べようとしたら、鈴木茂がワンタンを殆どつまんでしまって、汁だけ飲んだ・・という相当どうでもいい話を思い出す。
当時のラジオ番組でホストのかまやつひろしが語ったところによると「おいでよ」というのは、この頃の拓郎の口癖だったそうだ。「ねぇ、ムッシュ、○○をやってるからおいでよ」愛好崩して声をかけてくれる、そんな拓郎の笑顔が浮かぶということだ。
2015.10/4