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無人島で

1981年
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎
アルバム「無人島で」/アルバム「18時開演」

南の島の大王は、その名も・・・

 アルバム「無人島で」のタイトルチューン。アルバムのタイトルチューンといえば、「人間なんて」「伽草子」「(今はまだ)人生語らず」「明日に向って走れ」「ローリング30」「アジアの片隅で」などなどアルバムの顏となる代表曲、名曲揃いだ。そういう歴史を考えると、いいのか?これが代表曲で。このアルバムの「この指とまれ」や「春を呼べⅡ」や「ファミリー」は文句を言わないのか。
 このアルバムの松本隆の詞は、すべて拓郎がタイトルとお題を出して、それに基づいて書かれている。拓郎から「無人島で」というオーダーがあったことはたぶん間違いなかろう。無人島に行きたいような鬱屈した何かが、この時の御大には、あったのだろう。81年の秋のコンサートツアーを丸ごとキャンセルした時の心情と通底するものがありそうだが、わからない。
 しかし、そんな鬱屈した心情とはうらはらに、南の島で浮かれるバカップル(汗)いや、明るいカップルの様子がひたすら描かれる。舞台は、たぶんサイパンあたりだ。かつてアルバム「ローリング30」のジャケット写真撮影で、松本隆も同行した、あのサイパンを描いているかのようだ。  ラジオ番組で、高橋基子が「彼女が一緒にいたら無人島じゃないじゃない」と突っ込み、「え、矛盾してる?むじゅん島で・・・」とボケていた御大。それはいいのだが、サイバンで浮かれるカップルの様子を延々と聴かされるのはちょっと戸惑う。
 しかも、サイパンにはとても申し訳ないが、サイパンというのもどうよ。松本隆は、同じ頃に、松田聖子には「セイシェル諸島(セイシェルの夕陽)」、大瀧詠一には「カナリア諸島(カナリア諸島にて)」等の詞を書きながら、なんで御大は「サイパン島」なんだよ。悪意を感じるのは私だけだろうか。いや、御大も御大で、砂浜の波打ち際で、砂浜○○運動なんてやってるから松本隆も幻滅したのかもしれん。というわけで御大とそのファンにあてがわれたのは、ナマコがいっぱいのサイパンである。
 トロピカルなノリの演奏は申し分ないのだが、アルバムが12月5日発売ということだからか、真夏の島を歌いながらも、演奏が妙に寒々した感じがする。個人的な感覚に過ぎないが。この歌に命が吹きこまれたのは、18時開演の特典DVDだ。コーラスの面々とスタジオでリラックスして楽しんでいる様子。サイパンもバカップルののんきさも含めてウキウキOKな作品となって息づいている。これだ、これだと思って聴いた・・が、いいのか、御大に禿げヅラ乗せて(^^ゞでも、こういうノリがとてもいい。
 もともとこれは、本来、中止になった2009年のツアーのつま恋でのサプライズ演奏の予定だったようだ。今は亡き拓友のおかけで、その時のステージの佇まいと様子を今、頭の中でおぼろげながらも絵を結ぶことができる。この作品の最高の晴れ舞台になるはずだったのに。彼も観たかったろう。・・少し淋しくなる、ちょっと切なくなる。

2015.11/21