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紅葉

1995年
作詞 島倉千代子・石原信一 作曲 吉田拓郎  歌 島倉千代子
アルバム「ラブソング」

生きてこそあれ歌ひとすじ一筋の道

 小田和正が95年に島倉千代子のシングルとアルバムのプロデュースをした際に、アルバムの一曲として提供された。島倉千代子さんのことは詳しくはわからないし、御大との繋がりも不明だ。山本コータローの話によれば、72年頃、小室等を介して井上陽水と吉田拓郎がとある店で初めて会った。緊張する二人。しかし酔った御大は、小室等をおんぶして「東京だョおっ母さん」歌うと、今度は陽水が小室等をおんぶして「涙の連絡船」を歌い返して、二人が打ち解けたということである。それがどうした(笑)。
 また島倉千代子といえば、その代表曲は「襟裳岬」,「竜飛岬」という同名異曲がある。あちらが先だがかぶり方が凄い。あと、森下愛子出演の映画「サード」に島倉さんは永島敏行の母役で共演していた。それもどうした(爆)
 このような意味不明な接点しか思いつかないが、そんな二人の歌の大御所は、1995年になってアルバム曲の提供で静かに出会う。地味ながら「島倉千代子×吉田拓郎」の堂々たるコラボ作品であり、心にしみわたる傑作だと思う。
 島倉千代子は、大ベテランでありながら、実に可愛らしく恥じらいのある歌声だ。かつて「島倉千代子とは涙である」という名言があった。そのボーカルを活かすような御大のゆるやかで美しいメロディー。決して派手な作品ではないが、このふたつが実に見事に溶けあっている。

 「花咲く春もまばゆい夏も 目を伏せながら生きてきたけど」「見渡せば紅葉 赤々と紅葉」。うーむ、この繊細な情感。島倉さんの歌唱と御大の優しいメロディーがまさに紅葉が溢れるような見事な絵を描きあげている。
 石原信一の補作にしても、島倉千代子本人の手になる詞も染み入るようだ。詳しくない私でも、島倉千代子が晩年まで苦難で敷き詰められたような厳しい道のりを歩かれていたことは知っている。まさに人生いろいろ。そのなかで、「すなおに信じていいですか」の詞の無垢さが痛いほどである。「実印は離しちゃダメよ」と互いに苦労した親友の美空ひばりが注意したという。
 そんな美空ひばりが島倉千代子に送った短歌は「舞う鳥も私と同じこの世にも生きてこそあれ歌ひとすじ一筋の道」というものだった。極北の道を歩きながらも唄だけを信じてきた二人だったのだろう。苦難にまみれても決して汚れることのない歌声が美しい。「遅れた恋でいいですか」「芯まで抱いてくれますか」と無垢に歌いあげる「島倉千代子×吉田拓郎」の極上のラブソングがここにある。
 残念なことに、島倉千代子の世界でも御大の世界でも、この作品はあまり知られず、そうなると世間からは完無視だ。なんとも寂しく歯がゆい。島倉千代子さんは亡くなる前年に「結婚しようよ」をカバーした。偶然だろうが、まるで御大への謝意のようにもみえる。心から受け止めよう、そして、毎年、紅葉の時期は、せめて「見渡せば紅葉」と彼女の歌声を思い出し反芻しようと思う。

2016.11/12