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戻ってきた恋人

1974年
作詞 安井かずみ 作曲 吉田拓郎
アルバム「今はまだ人生を語らず」

戻ってこない小花模様の姉貴分

 安井かずみの作詞にして「猫」への提供曲。72年頃、かまやつひろしという知己を得た御大は、伝説の「川口アパート」に連れて行かれ、今でいうセレブな文化人、コシノジュンコ、加賀まり子らとともに作詞家安井かずみと出会う。
 安井かずみは、既にエスタブリッシュされた芸能界・音楽界の象徴だった。そして、この作品の依頼が二人を接近させる大きなきっかけとなったようだ。フォークを忌み嫌いながらも、御大を気に入った安井かずみ。ウェラのシャンプーの香りが彼女の琴線に触れたという逸話も面白い。うーんスカルプDとか使っている場合ではない。
 「不良で、わがままで、でも12時過ぎると傍にいてやらなくてはならないカッコイイ姉貴で、僕はその弟でした」と言う御大の言葉に二人の信頼関係が十分に現れている。「小花模様の長いスカート」「もうピンときますよね。そういういい女を描くんです。この時代になっても忘れられないフレーズです」おそらくこの作品が拓郎にとってまさに輝ける彼女の象徴だったことがうかがえる。
 しかし二人の仕事は「金曜日の朝」、翌年の「じゃあまたね」を最後に(おっと「いけない子供」を忘れるな)、85年のジャスト・ア・RONINまで約10年間途絶えることになる。これは、加藤和彦との結婚により、夫婦の専属的共作関係ができたからとのことだ。
 2013年発刊の安井かずみの関係者のインタビュー集「安井かずみのいた時代」は、拓郎のインタビューを含めて、もう心の底から切ない一冊だ。特に御大のインタビューは哀しみに満ちている。
 それによれば、御大は安井かずみが亡くなるもっと前から彼女の悲痛を見続けていたことが窺える。加藤和彦との結婚。ベストカップルと賞賛されていたが、御大は、この結婚は、安井かずみの加藤に対する隷従のようなもので、彼女の大切な資質を疲弊させ、後年この夫婦は破綻していたとまで言い切る。10年を経ての共作「サマルカンドブルー」は、御大にとってその厳しい事実を思い知る場ともなったようだ。御大が見つめる安井かずみの痛々しさはどこまでも悲しく、弟が不遇な姉を心配するような愛情と苛立ちに満ちており読んでいるのが辛くなるほどだ。
 そして特にその原因たる相手が自分の生涯の恩人であり尊敬する友人加藤和彦であることは、御大にとってはどんなに辛いことだったろうか。おそらくは身の置き所がないような苦しみにあったのではないか。しかしさすが御大。自分の辛さや苦しみについては一切語らない。ここに御大という人間の魅力の一端がある。
 小花模様のスカートをひらめかせ、わがまま勝手な女性をポップに描いた逸品であるこの作品。「愛しくて可愛い人でした」と語るこの作品とこの頃の安井かずみが今も御大の胸に焼き付いていると言う。お気に入りの名曲でありながらステージで歌わないのは、やはり想いが溢れ過ぎていて辛いからなのだろうか。

2016.1/30