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また会おう

1972年
作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎
アルバム「元気です」

動物のお医者さん、やさぐれロックで唸る

 フォーク=ポップス色の強い名盤アルバム「元気です」の中にあって、唯一、ロックの牙城を守り通しているのがこの作品だ。なんといってもタイトなロック演奏に、張り合う拓郎のシャウトの素晴らしさ。しかし、今になって聴き直すと、このシャウトはどこかまだ青く、それだけに生硬だ。青い蜜柑のような刺激的な酸っぱさが漂う。
 まだ「落陽」「君が好き」等の名だたるロックナンバーの生誕前のライブでは、この作品の役割は大きかったに違いない。高中正義のギターが唸る1972年のコンサートツアーのライブ映像が残されているが、このようにステージの場数をこなして、青いシャウトがさらに磨かれていったのではないかと推測する。
 忘れてならない・・というか忘れようのないのが、岡本おさみの詞。「やさぐれロック」ともいうべき凄みがこの作品の命脈を支えている。冒頭からいきなり「キレイに裏切ろう アイツが信じきっている その肩に無言の斧を打ち込み」というショッキングな切り込み。深い挫折とある種の地獄を見た男だからこそ書くことができるフレーズだ。
 おそらくデビュー間もない頃に拓郎の周りには、怪しくインチキな人々がたくさん蠢いていたに違いない。そんな油断ならない音楽界にあって、若き拓郎もこの詞に共感し、またある時は支えられたのかもしれない。「お世辞を使うのが億劫になり中には嫌な奴だっているんだよ」という厭世的な詞は、このあたりの岡本おさみの「やさぐれ」が刺激になっているのではないか。
    「戦争もありふれている 僕らは知りすぎている なぜ人と人が殺し合うのかも」
 この逆説的なフレーズも、戦争に反対し、運動に挫折し、深く傷ついたあげく屈折が一周して、ねじくれてしまった複雑な心境があらわれている。ともかく岡本おさみの言葉の鋭利さ、その底にひっそりと沈殿している優しさ。はっぴいえんど松本隆の「です、ます」を日本語ロックの革命と世間はありがたく珍重するが、岡本おさみの一連の無頼でロックな詞も同等に言葉の革命として評価されてしかるべきだと思うのだがぁぁぁ。
 原曲の扇情的なギターは、印象的で長いこと矢島賢あたりのプレイではないかと言われていたが、最近、蔭山さんのHPで、ミニバンドの田辺・・・田辺ナントカのプレイであることが発覚した(笑)。つまり田辺和博さんが、松任谷正隆らのオケをベースに、スタジオでギターを被せたことがわかった。このフレーズをやがてステージで高中正義が弾いていると言うことは、田辺さんの凄さを思い知れ。ただの動物のお医者さんではない。
 シャウトとやさぐれロックが漲るこの作品。さすがに現在のステージでの再演は厳しいだろう・・・しかし、私のような一般Pの予想など常にカンタンに裏切る御大だから・・・

2015.10/31