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まぁまぁ

1983年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
シングル「I'm In Love」

決して行列の出来ない相談所

 シングル「I'm In Love」のB面。これまで、ことあるごとに「B面名曲伝説」を語ってきたが、例外もある。この作品は、シングルB面が一番おさまりがいい。ショボイ曲というわけではないが、どこから聞いてもB面テイストが漲る。仮に幻になってしまっても、草の根分けても音源を探し出してやる、というより、・・ああ御縁がなかったんだとあきらめられそうだ。・・なんてマニアにはそうは行くはずもないが。
 ラテンビートの打ち込みを使って、せかせか性急に歌われているが、テーマは、「恋愛相談」だ。吉田拓郎が、誰だか知らない知人の恋愛相談に乗る。「今夜は朝まで付き合ってやるから話してみろ」という男気を見せる意外な詞だ。
 かつて拓郎も参戦していた深夜放送の全盛時。どの番組でも、リスナーからの「人生相談」「恋愛相談」が花盛りだったように思う。谷村新司、松山千春、みんな毎週人生相談、恋愛相談を繰り返していたように記憶している。
 しかし、そんな中で、拓郎だけは頑なに「人生相談コーナー」を拒否していた。リスナーのハガキに個別に、叱咤激励することはあっても、「ご相談をどうぞ」と看板を掲げることはなかった。例外は、オールナイトニッポン第2期の時に産婦人科医で今や国会議員の赤枝恒雄先生をお招きして「性の悩み相談室」を特別開催したときだけだ。まぁ、それはそれ。
 このことは、拓郎が人の悩みに関心がないとか、冷淡な人であるからではない。彼の発言やエッセイをつなぎ合わせると理由が見えてくる。「悩み」も、その人個人のかけがえのない大切な財産である。それをむやみに人に晒し、簡単に「売り物」にすべきでない、という確固たる哲学があるからだ。人はみんな一人。その距離感の鉄則から、自分の悩みを晒してデレデレと甘えあうことを忌避しているかのようだ。
 そもそも人生、恋愛などどうぞみなさん相談にお来しなさいなどと言える人間というのは、ウサンクサイ。相談が人間に必要であるにしても、それは音楽家=吉田拓郎のやるべき仕事ではないという決意ではないかと推測する。
 それに、これを言ってしまうとミもフタもないが、吉田拓郎に恋愛哲学、恋愛方法論があったとして、それは私達一般Pに役立つものなのか(爆)。ダメだよねぇ。必ず「危険ですので、良い子はマネしないでください」というテロップが必要なのではないかという御説もあるくらいだ。この作品でも、いろいろアドバイスしても結局「アンタはアンタで輝いてくれよ」という結論しか出てこない。そもそも拓郎から「今夜は朝まで付き合ってやるよ」なんて言われた日には、それだけであらゆる悩みが雲散霧消、すっ飛んでいくことに間違いない。
 吉田拓郎は、その音楽と存在で、他人様の悩みを解消していく人なのだということをあらためて思う。

2015.10/11