uramado-top

ロンサムトラベリンマン

1993年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「TRAVELLIN' MAN LIVE AT NHK STUDIO 101」/DVD「吉田拓郎 101st Live」/DVD.CD「LIVE2012」

星を数える男の旅に星が降るのだ

 

 93年の春に御大が突如テレビの司会に登場してびっくらこいた番組「地球ZIGZAG」。その主題歌、といっても番組の最後にそっと流れるだけだったが。ギックリ腰でコンサートツアーを断念した御大は、座って出来る仕事ということでこの「地球ZIGZAG」の仕事を引き受けたらしい。ツアーは無理なので、NHK101のテレビでの一回だけのライブで録音された音源が公式のものとなった。以後96年まで腰をいたわりライブでは座って歌う時代が続いた。財津一郎ならぬ「座椅子拓郎」時代と呼ぶ。キビシぃーっ!
 心にしみわたるような作品である。「少しこうしてゆらりと歩こうか」と歌うとおり、ゆったりとひとつひとつの思いを噛みしめるように歌い上げる。歌詞に、メロディーに、そして歌唱に漲る落ち着いた老成感がハンパない。トラベリンマン。まさしく番組で地球のいたるところに果敢に出かけていく若者に引っ掛けたのだろうが、それにしちゃ渋すぎる作品だ。正直、番組とマッチしていたとはいいがたい。
 しかし、この作品が年寄臭い歌なのでダメだといっているのでは断じてない。ソウル溢れる傑作の部類に入る作品だと思う。
 「愛する女がいるじゃないかそんなに荒くれることはない」…例えばボロボロに傷ついてしまった人の心を、どこまでもやさしくいたわるように 語りかける出だしが、いきなりツボである。
 「もう一度 困難に立ち向かおう」「この心が 老いない限り押しよせる波風も友として」とあるように決して老いに屈するのではなく、静かに困難に立ち向かう心意気をしのばせる。「明日は必ず来るんだからそんなに思い込むことはない」「やけっぱちで失意の時も 希望の明日を信じて」・・・孤高の旅路を激励し心の奥底に語り掛けるようにしみじみと歌われる。
 あの番組で世界に身一つで挑んでいった「むし熱い若者たち」。素晴らしい若者のドラマがいくつもあった。彼らが何十年か経って、さすがにいろいろ疲れ果て、あれやこれやの壁にぶつかったとき、きっとこの歌は救いのように響くに違いない。あの時のちょっとシャイで不慣れな司会者は実に素晴らしい歌を歌ってくれていたんだと感激してくれる…とイイなぁ。
 歌詞に登場する「星降る街」というのがこの作品の原題だった。そっちのタイトル方がいいなぁ。トラベリンマンというと乗り物酔いの薬「トラベルミン」を思い出してしまう(苦笑)。星降る街に抱かれ、星降る街と語り、星降る街で育む。故郷広島のことだろうか。わからないが「星を数える男」の「星を数える旅が続く」。「流星」「男達の詩」の続編、兄弟作のような歌といえなくもない。
 

2016.12/10