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ロンリーストリートキャフェ

1986年
作詞 安井かずみ 作曲 加藤和彦
アルバム「サマルカンドブルー」/DVD「89 TAKURO YOSHIDA in BIG EGG/DVD「吉田拓郎 101st Live」/DVD.CD「LIVE2012」

彼女が描いてくれたポートレイト

 

 アルバム「サマルカンドブルー」に唯一アコースティックサウンドで収められた作品。孤独でヤサグレたハミ出し者。そんな男がいつも居場所を求めてさまよう姿は西部の流れ者のようにドラマチックでもあり、安井かずみが愛をこめて描いた御大の姿に違いない。加藤和彦の荒げすりなメロディーもまるで御大が作ったと見まごうような出来映えだ。世間が見ている典型的な無頼でカッチョエエ拓郎像が描かれている。
 なんといっても弾き語りの定番曲である。統計を取ったわけではないが、ここ最近「弾き語り」というと「君のスピードで」と並んでこの曲の演奏率が高い。ある意味、困ったときのこの一曲といっても良いかもしれない(笑)。
 こんな勝負ツールとなったのは、やはり89年のコンサートツアーひいてはオーラスの東京ドーム公演の伝説のアンコールが原因だろう。いいも悪いも困惑の東京ドーム公演。このドーム公演のアンコールでの弾き語りの絶唱。ドームに響き渡ったまさに雄ライオンの咆哮は、まさにハイライトであった。この一曲で、この魑魅魍魎が渦巻く汚れたドーム(笑)が一気に浄化され聖なるものになったのだった。
 ちなみに♪だぁーれからぁも…のところで原曲のドラムと同じ見事なタイミングで、「ヒェーイ!」叫んだどこかのにいさん。ハラショ。ブラボ。素晴らしい。どこかで会ったらビールを奢らせて欲しい。
 御大がかつて「ギター一本あれば何万人でも倒して見せる」と豪語した一例であろう。この時もライブのあとで田家さんに「ギター一本でやって日本で一番うまいのはオレに決まってるだろう。だからもったいないのでやってやらない」とカマしたらしい。そうはいっても、その後も自分の居場所を探すことがテーマだったという「男達の詩ツアー」での熱唱もあったし、カントリーツアー越谷の中断後、熊本のツアー再開では、いきなりオープニングで歌い驚かせてくれもした。また、3年4か月のブランクを経てステージに立った2012年のオープニングの固唾をのんで聴いた熱唱も忘れられない。あらゆる勝負場面でこのロンリーストリートは切れ味のいい懐刀のような役割を果たした。
 おそらく御大がこの作品をここまで重用する根底には「安井かずみ」への思いがあるのだと思う。2012年のライブ再開時には「オープニングに安井かずみの歌が歌いたかった」と語った。さかのぼる2002年のNHK101でのビッグバンドとのライブでは、「安井かずみの歌を歌います」とコメントして「パラレル」とともにこの作品を歌った。安井かずみと御大を結ぶ大切な紐帯であることがうかがえる。生前に安井かずみが、自分の姿をスケッチしてくれたポーレイトをいつでも大切に抱えて旅をしているかのような御大を思う。
 101の時には、弾き語りを歌い終わると一斉にビッグバンドの美しいストリングスがこの作品のメロディーをトレースして締めくくった。まるで御大の歌唱をていねいにラッピングするかのように鳴り出すアレンジに魅了された。基本は弾き語り曲ながら、ビッグバンドの美しい結晶を観ているかのようだった。 荒くれた男=弾き語りと母姉の愛情のように包みこむストリングスとの対比が実に見事な名演だった。個人的には、これをベスト・バージョンとして推挙したい。
 

2016.12/10