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こうき心

1970年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「青春の詩」/アルバム「よしだたくろう LIVE'73」/アルバム「TAKURO TOUR 1979」/アルバム「Oldies」

何度でもやってくる人生の街角にこの歌を携えて

 ソノシート「真夏の青春’70」そしてデビューアルバム「青春の詩」に収められている古参の代表曲。古参にもかかわらず、2012年秋の3年4か月ぶりのライブでも3曲目にスタンディングの観客に迎えられてノリノリで歌われたことは記憶に新しい。このツアーのNHKホールに山下達郎とともに訪れた竹内まりやは、高校生の頃、故郷松江で拓郎のコンサートを観たことがあったし、この歌を愛唱していたのでトテモ感激したとのことだった。
 竹内まりやに限らず、この作品の支持率は高い。「街を出てみよう」「話をしてみよう」「恋をしてみよう」「雨に打たれてみよう」・・・今の自分の安心できる環境から一歩外へ出ようという、この歌に勇気を得たファンは多かったと思う。しかしよく世間で言うような「この歌から元気をもらいました」というような薄っぺらな元気ソングとは違う。決然とした中にも、どこか切ない哀愁に満ちあふれている。背中を押してくれるというより、不安の中をさまよう私たちの横に静かに添うていてくれるような勇気の歌だ。特に「また来る人生の街角で本当の幸せを見つけるのまで」・・・なんという美しいフレーズだろう。
 「~してみよう」と韻を踏みながら、最後のフレーズだけ「外は雨が降っている」という旅立ちの予感でしめくくるような詞の組み立て方も見事だ。デビューアルバムアルバム「青春の詩」の圧巻は、「こうき心」⇒「今日までそして明日から」⇒「イメージの詩」のメッセージで緊結されたインパクトのある三曲ではないか。
  一方、ライブ73では、ド派手なロックンロールであり全く様相が違う。こちらは、目の前の障害物を次々と撃破しながら進んでいく力強い迫力がある。一見すると73年にアレンジを変えたようだが、71年の飯田高校文化祭のライブでは、前半に弾き語りで、後半のミニバンドでのステージでは、エレキが唸るロックバージョンを展開している。当初から水陸両用ならぬアコギとロック両用として作られた曲なのかもしれない。最近も、2012年のライブではロックバージョンだったが、2014年では弾き語りで観客を唸らせた。この作品は卵が細胞分裂するように、弾き語りとロックが対極をなしながら今も生きつづけている。
 切ない心に寄り添う弾き語りと前のめりに撃破して進むロックンロール。この両極端のふり幅の広さこそが吉田拓郎である。対極のアレンジでありながら、よく聴くと弾き語りの切なさの中にも決して曲がらないロックな魂が覗き、ロックのハードな演奏にも切なさが滲み出る。どちらか一方に偏らない、そのふり幅の間に「吉田拓郎」はいるのである。
 歌い手も聴き手も、かなりの年齢を重ねてきたが、やはり見えない明日を行かなくてはならない道すがら、やはり今もこの作品は、傍らにあり続ける。
 2001年の「Oldies」で、鳥山雄司とのコラボでセルフカバーされた。そのアレンジは、ロックンロールでもなく、第3のアレンジのようである。実にユニークで達者なアレンジがあることも忘れてはならない。

2015.9/13