心の破片
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎
シングル「心の破片」
作品をして今一度命をあたえたもう名曲
99年5月発売の意欲のシングル。松本隆との久々の黄金コンビの復活。フジテレビのゴールデンのドラマ「傷だらけの女」の主題歌に抜擢され、人気歌番組HEY!3に、浴衣姿で現れ、LOVE2オールスターズの面々と賑やかしく口パクで歌ったのも記憶に新しい。まさにLOVE2バブルの真っ盛りである。
ただ今にしてみれば人気女優とはいえどこかB級テイストの残る高島礼子が主演の少しというかかなり残念なドラマであり、もうちょっといいドラマが他にもあったろうにとフジテレビの高き壁を恨めしく思う。
松本隆といえば「ローリング30」のレコーディングのロックウェル伝説。松本がその場で書いた詩に拓郎が速攻でメロディをつけてスタジオに持っていくという名曲の実演販売。拓郎はこの作品の時も、ドラマのスタッフらを一同に集めて、松本隆とともに目の前で主題歌を作ってみせるという伝説の実演販売を企画した。しかし、結局、みなさん集まったものの、作品が完成できずにお持ち帰りになったという悲しいお知らせが当時のファンクラブの会報にひっそりと載っていた。
また、松本隆が面前にいなかったせいで拓郎は「鳶色」を「うぐいす色」と読んであわやそのままレコーディングしそうになった話、拓郎はメロディーに迷って「斬新な現代風メロディー」と「昔ながらのメロディー」の二通りを作って、結局「昔ながらのメロディー」を選んだ話などエピソードには事欠かない。ただ話題性が先行しすぎ、それだけで消費されてしまい作品としての評価をされぬままに忘れられてしまった気がしないでもない。
こういった外的環境的状況を一切し捨象して作品だけを見つめてみよう。松本隆の詞は往年ほどの鋭い冴えはなくなっているかもしれないが、言葉の紡ぎ方がやはり見事だ。短い言葉の中に、男女のドラマの情景を描ききっている。具体的な情景でもあり、また何かの象徴のようでもある詞世界・・・「魂救おうと手を差しのべ」「マニキュアの月を喰い込ませ」「弓なりの背中で愛の矢を射る」というフレーズの秀逸さ。
そして「昔ながらのメロディー」ということで、文字通りまるで「破片」のようにメロディーに散りばめられた拓郎節が心地よく、ファンにとっては嬉しい傑作だ。個人的にも実生活何か嬉しいときがあると「ああ生きていて生きててよかったと」のフレーズが頭に流れるし、悲しいときには「こなごなの心の破片」と歌っていたりする。
しかし心に残る名曲なのだが、このアレンジはどうなんだ?と思うのは私だけか。「花祭り」をイメージしたアレンジだという談話があったが、なんでお釈迦様が出てくるのかよくわからないし、あんまりわかりたくもない。刷新したアレンジ、いやそれがなんなら御大の弾き語りでもいい、ライブで渾身の再演をしてほしい一作だ。
2016.1/9