季節の花
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「午前中に・・・」
60歳を超えようと名曲は生まれ続ける
こういう名曲と出会えるからいつまでもファンをやめられない。還暦をとうに超え、コンサートツアーも断念せざるをえないような苦境にあって、この作品に漲る清々しさはなんだろうか。雲の切れ間から陽が差し込むような小倉正和のギターから始まるイントロ。演奏も最高のラッピングのように「隙」がない。「午前中に・・・」が素晴らしいアルバムとなったのは、この作品の力も大きいと思う。
一番の歌詞で、ヘリコプターが空から覗いているというプロットは1990年「東京の長く暑い夜」(CD・レコード未収録)にも出てくる。拓郎にとっては、プライバシーがいとも簡単に侵される不快さが「東京」のひとつの象徴なのだろう。
二番では「君が好きだった僕はいなくなったけど 僕が好きだった君の心は同じですか?」・・・亡霊のように拓郎にからみつき苦しめつづける「昔の拓郎は良かったなぁ」攻撃に対して見事な一太刀で切り返す。
なんといっても「また雨がふり また風が吹き・・」に始まるリフレインが胸にたたみかけてくる。
「またウソをつき また夢を見る、また迷っても また探す道、またほほえんで また口ずさむ・・・・」
出口なき苦境に逆らわず、それでも清々しく進んでいくしかない。このリフレインのひとつひとつがたまらなくいとおしい。何度でも聴き返したい。
この作品さえ傍にあれば、これからも生きていける・・・そんな力を貰える気分になる。世間でいう「元気ソング」というのとは微妙に違う。「元気出して頑張れ!」という薄っぺらな歌ではなく、深い悲しみに満る中を進んでいく言葉たちの煌めき。まさに一厘の花のような救いか。
「季節の花」というが、いつの季節の何の花なのか、どういう色彩でどんな香なのかは、具体的には語られない。語られないが、歌う方、聴く方、それぞれの花が心に広がることは間違いない。
鎧を脱いだように、それでいて心地よい世界というのは、この後のアルバム「午後の天気」の「僕の道」などにも続いている気がする。歴史の真っ只中にいるのでわからないが、吉田拓郎の作品史にあって第何期目かの新しい潮流が静かに始まっているのではないか。
そうそう拓郎は「なんてん」の花が好きらしい(八曜社「エッセイ集・明日に向かって走れ」より)。派手やかさのない地味な花であるところに拓郎の人柄が偲ばれたりする。「なんてん」の花言葉は、「難を転ずる」ということで「幸福」らしい。
2015.4/5