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金曜日の朝

1973年
作詞 安井かずみ 作曲 吉田拓郎
シングル「金曜日の朝」

ZUZUとスニーカーの頃

 1973年12月、アルバム「よしだたくろうライブ'73」と時期を同じくしてシングル発売された。作詞家安井かずみとの初コラボ。赤い屋根、チェックの日差し、パリに似た街、バラでも買って帰る・・・都会のセンスというかオシャレな世界が広がる。この世界に違和感のないポップなメロディーにルックスと歌声。そこにはフォークソング臭を徹底的に払拭した一人の青年が描かれている。岡林信康も高田渡も南こうせつもこの詞世界は歌いこなせまい。まさしく安井かずみの詞世界に飛び込んだことで吉田拓郎は、まさしくジュリーらと同じ海を違和感なく泳いでいる。
 伝説の「川口アパート」でかまやつひろしによって、コシノジュンコ、加賀まりこらとともに紹介された安井かずみは作詞家としてだけでなく拓郎にとって大きな存在となったようだ。それぞれに天才としての慧眼とセンスを持っていた彼女たちは、一見すると広島から出てきたフォークのイモ兄ちゃんだった吉田拓郎の中に光る原石を見逃さなかったに違いない。この青年を可愛がり、文化やセンスや男としてのある種の教育を施したのだと思う。コンシノジュンコが、あなたはこっちが似合うわ、とファッションをあてがうように、あなたはフォークソングじゃなくて、こうした方が素敵よ、というように。祖母、母、姉の愛情に育まれて女系家族で育った拓郎にとって、安井かずみは作詞家ではなく、間違いなくこうした女性保護者たちの一角にいたのではないかと思う。
  たぶん拓郎は、ジュリーほど彼女に対して従順ではなく、既にいろいろなものを背負わされていたため、彼女との仕事は、それほど広がらなかったけれど、拓郎がもう少し若く身軽だったらば、仕事や歌やもろもろの展開ももっとあったかもしれない。
  この作品からは街の風景や部屋の香りのようなものまで香ってくる。ヨーロッパとか原宿とかの街並みを彷彿とさせる。二つは随分違うが、個人的には、どちらも憧れの香りがする。その中に自然に溶け込んでいる吉田拓郎のカッコ良さと魅力が滲み出ている。ここでもまだ二十歳になるかならないかの高中正義のギターが心に響いてくる。まだ少年でありながらこのギターの豊かな表現力は実に素晴らしい。
 さて突然出て行った君は、次作「戻ってきた恋人」で帰ってくるのだが、それはまたその時に。「よしだたくろうです。スニーカーが大好きです。」というラジオスポットも記憶に残っている。そこにはフォークを一身に背負っていた拓郎に対しては、ファンとしての賛否があったのかもしれない、セールスはいまひとつだった。ライブ73とつま恋75では歌われたが、その後はステージでは歌われていない。女性コーラスを配したステージでぜひ再演して欲しかったが、もしかしてもはや音域が広すぎてキツイのか。
 しかしどうあれ拓郎にとってもファンにとっても至極大切な逸品だと思う。

2015.12/12