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昨日の雲じゃない

2012年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「午後の天気」

すれ違いと歌うギター

 2012年のアルバム「午後の天気」の2曲目。「あの雲は今日の雲。昨日の雲じゃない。」・・・当たり前だろぉ!とツッコンでみるのだが、聴いていくうちに、うっかり落涙しそうになる。この曲の全体にまぶされたような悲しみと切なさは、一体なんだろうか。
 「いくども君に伝えたが すれ違うような時がゆく」・・・何度語っても、幾度言い聞かせても、理解を得られず、すれ違ってしまう寂しさ。まるで拓郎とファンの関係のようだ。それを歌ったのではないだろうけど。ひとりぼっちの拓郎の孤独な姿が浮かび上がる。「この寂しさを乗り越えて いつか分かり合える二人になれる」・・いつかきっとわかりあえると歌うが、拓郎本人もどこかで無理かもしれないことだとわかっている儚さがうかがえる。拓郎も我々ファンンも「いつかは・・・」という程、お互い様時間が潤沢にはないことをわかり始めている。だから、この作品が身に沁みる様に切ないのだろうか。
 久々の鈴木茂のアレンジである。好みの問題かもしれないが、鈴木茂のアレンジとギターにはそこはかとない静かなる「品」がある気がする。アルバム「大いなる人」で、拓郎の詞を丹念に読み込みながら秀逸なアレンジを魅せた鈴木茂である。この詞の真意をキチンと引き受けた仕事だ。長い前奏で、その鈴木茂のギターが泣くように歌う。間奏も、後奏も、ギターが切なく歌う、歌う。普通のギターソロなのかもしれんが、実に演奏に溶け込んでいて、リリカルというか、「歌う」というのがぴったりのような気がする。たまらん。
 憶測だが、この長いギターは、鈴木茂の申し出ではなく、拓郎が「シゲル、ココんとこ、もっといっぱい弾いてくれよ」という注文だったのではないか。この切ないギターを再び優しく引き受けて始まる拓郎のボーカルも実に艶がある。それにしても65歳にしてなんと清々しく伸びやかなボーカルなのだろうか。そして涙腺を微妙に刺激するメロディー。切なさと悲しみに満ちながらも、そこに沈まずに主体的に前に行こうという拓郎の意思が滲んでいる。そこがこの作品に「癒し」とは違う「力強さ」を与えているのではないか。

2015.10/11