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気持ちだよ

1999年
作詞 康珍化 作曲 吉田拓郎
シングル「気持ちだよ」/アルバム「AGAIN」/DVD 「TAKURO YOSHIDA LIVE2014」

月日だよ、月日だよ、歌を熟させるものは

 1999年、人気アニメ(たぶん)「こちら亀有公園前派出所」の劇場版の主題歌となり、テレビ版でも一時期テーマとして流れた。同時期のコンサートツアー「20世紀打ち上げパーティー」ではアンコールの一曲目にも歌われた。
 奇しくもフォーライフの脱退を表明したツアーであり、実際にこの作品がフォーライフ最後のシングル盤となった。「となりの町のお嬢さん」から始まったフォーライフ・シングル履歴のフィナーレにもかかわらず、ジャケットが異様にそっけなかったのも忘れられない。なんだこりゃ100円ショップで売ってるメモ帳かスケッチブックの表紙か。売る気あったのかよ、フォーライフ。
 しかし人気アニメの主題歌に採用されるとは、やはりLOVE2の成功によるフジテレビとの蜜月の賜物かもしれない。もちろん拓郎はそんなことに無関係なく歌っていたのであろうが、康珍化の作詞というところで「全部だきしめて」の第二弾を狙う・・・という周囲のオトナたちの仕掛けが見え隠れする気がする。残念ながらヒットはしなかったが。
 周囲の魂胆は別にして、やるせない気持ちと希望とがブレンドされた詞も曲も、そして「気持ちだよ 気持ちだよ」と切々とたたみかける拓郎の歌唱も素晴らしい。しかし、しみじみとしすぎて地味というか古色蒼然とした感じもある。例えば「重たい荷物は背負ってしまえば、両手が自由になるだろう その手で誰かを助けたい」というフレーズが、拓郎には微妙にフィットしない気もする。康珍化の毒気の無い詞は、拓郎が歌うと、物足りなさと気恥ずかしさが先に立つ気がしてならない。どちらかというと南さん系向けではないか。
 そういう微妙な話とは別に、アニメの主題歌ということで、拓郎ファンとは関係ないアニメファンの青少年が、時々ブログなどで「名曲」「大好きな曲」「やばい泣ける」と記してくれているのを見つける。何の構えもなく素直に聴いて心に止めてくれている。セールスや新たなファン獲得とかまではいかなかったものの、若き彼ら彼女らの心に拓郎の歌声が刻まれたことはなんとも嬉しい。大袈裟に言えば「未来に向かって蒔かれた種」のような作品ではないか。
 そして、2014年のセルフカバー「AGAIN」で再録音され、同年のツアーでも演奏され久々に聴き直した。2014年バージョンは、いいじゃん。アレンジと演奏の美しさが際立っていたし、歌い手も聴き手もほどよく枯れたためか、気恥ずかしさも薄れ、実に味のあるバージョンで心地よかった。自分も「両手が自由になれば、足元が安心」であることを実感する今日この頃だ。とにかく長年寝かせて、見事に熟成した感じがする99年モノのワインみたいだ。

2015.10/25