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君が先に背中を

1984年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「FOREVER YOUNG」

参考にしてはいけない「別れ方のススメ」

 昔、拓郎のラジオ番組では、女性リスナーの方たちから「拓郎さんの歌はホントに男の身勝手な歌ばかりですね」と苦情の投書が舞い込むことがよくあった。拓郎もそのたびに素直に認めていたと思う。
 夕暮れのバスターミナルでの男女の別れを歌ったこの作品もその代表メンバーの一人ではないか。特に当時は離婚が背景にあったアルバム「フォーエバーヤング」の中の一曲だけに、また妙なリアル感もある。
 どうみても男性の都合で別れる二人。男性は女性に「だから泣かないで、ボクを見つめないで、君が先に背中を向けてくれないか」と頼む。うーん確かに身勝手だ。さらに男性は「キミの人生にまた日が昇り明るい笑顔が戻る日はすぐ来るさ」と語りかける。おまえが言うな!・・コレが一般男性だったら大変だぞ。
 しかし、そこは吉田拓郎。ただのチャラいプレイボーイ(古いか)ではなく、本当は大いなる愛と悲しみの人であることがファンにはわかっているから、こういう身勝手も「特赦」のように受け入れてしまう。とはいえ私ら一般Pは危険ですので絶対マネしないでくださいという世界だ。マネできやしないか。
 楽曲としては魅力的な一篇に仕上がっている。円熟した王様バンドによる演奏はここでも素晴らしい。性急な演奏が、追い立てられるような寂寥感を醸し出す。それでいて盤石な安定感がある。しかし決してそれだけではない。実生活の背景がスパイスとして効きすぎているせいもあるのだろうか。このメロディー、演奏、本人の歌唱のすみずみまで、どうしようもない悲しみに溢れている気がしてならない。それは決して歌詞の内容だけではなく、この曲全体に込められている悲しみの怨嗟みたいなもの。それが音楽家たちに共有され、見事に表現されている。それが、たぶん聴き手のそれぞれの心の奥にあるいろんな忸怩たる思いを刺激するのだ。特に、間奏の青山徹のギター。波打つような寂寥感のある音色そして見事な速弾き。達意の技を魅せている。ウマイなぁ。結局、詞やその背景を湛えながらも、客観的には見事なパッケージの楽曲として成立している。目立たないながらも、アルバム「FOREVER YOUNG」の名盤性をしっかりと支えている。

2015.10/25