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気分は未亡人

1984年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「FOREVER YOUNG」

風になれない男たちと風切る女たち

 放蕩を尽くす夫に愛想を尽かし不満をぶちまける妻の歌。異色な作品だ。なにせこのアルバム「フォーエバーヤング」は浅田美代子との離婚が大きな背景にある。そんなときにこんな曲とは、どうしたもんだか取扱いに戸惑った。とはいえ、やはりどうしたって笑いが先に立つ傑作だ。
 当時のファンの都市伝説で、この詞のモデルには諸説があった。①当時の拓郎バンドのメンバー説、②後藤次利と木之内みどり夫妻説(当時ご夫婦)、③なんのかんの言っても拓郎本人ではないか説・・といろいろあったが、確証たるものはどこにもない。②はラジオでそのようなことが語られたという報告もある。そしてもちろんモデルなんかいなかったという100%創作説もある。本人のみぞ知るか。
 コミカルな詞だが、あくまで男の側から見た女の視点なので女性から見ると男のズルさが微妙に残っていたり、やや的が外れていたりするところもあったりするかもしれない。しかし、面白いのは「あなたが『風』なら私もそうしておかしくないわね」のところ。この当時「風になる。風のように生きる。」ということが拓郎の当時の口癖でありシリアスなテーマでもあった。「マラソン」の「僕はあの時風になり…」などのフレーズからも窺える。私も当時はどうしたら風のように生きられるか真剣に考えていたことがあった。考えてもどうにもならなかったが。この当時の深刻なテーマが、見事に軽くあしらわれているところが身も蓋もない。男はもともと風になんかなれないから、風になりたいと思うのかもしれない。そこが滑稽なのかもしれない。
 このように詞のインパクトに引っ張られ過ぎがちな作品だが音楽的にも秀逸だ。このアルバムは名曲の宝庫だから、あまり目立たず、コミカルなリリーフとして片づけられがちかもしれないが、レゲエのリズムが見事に拓郎のフィルターを通して自然なカタチで心地よく息づいている。「仕方がないので車を飛ばして東名高速」「違った生き方するなら今がgood timing」このあたりの言葉ホップさせるような小気味よいメロディー。自然に身体が揺れ出していくような痛快さがたまらない。
 1984年の秋のコンサートツアーのステージで演奏された時に、いわゆる極悪バンドの全員でこのラ~ラララララのコーラスをつけていたのが忘れられない。ぷりてぃな雰囲気の中に醸し出す説得力。なにせ全員いかにも身に覚えありありな方々の合唱だったからか。

2020.4.8