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風の街

1976年
作詞 喜多條忠 作曲 吉田拓郎
アルバム「明日に向って走れ」/アルバム「18時開演」

歌ありて街あり。敵ありて味方あり。

 この作品を名曲と呼ぶことに異議あり!という者はそうはいまい。名曲であるだけではなく、聴くもの心には、原宿、表参道の景色、ペニーレイン、あこがれ共同隊、常田富士男、また来週、「ツケにしといてくれ!」、桜田淳子、郷ひろみ・・・それぞれの思い出の景色が浮かび、街の香りまで漂ってくるに違いない。3Dのような想い出喚起力がある。
 トリビアな話だが、この歌は最初、一番と二番が逆だった。どうでもいいことのようだが、想像すると歌の様相はだいぶ違う。やはり冒頭の道の向こうで手を振るアイツの姿が、いきなり胸を打つ。空に昇って消えていく風船、子犬を抱き上げるキミ。順序は大事なのだと思う。
 そんなそれぞれの想い出や感傷をも包み込むポップなメロディー。温かく、そして心地よくどんどん盛り上がっていくメロディー展開は拓郎の独壇場だ。盛り上がるあまり、音域が広くなりすぎて、おそらく拓郎本人はライブでは歌えなくなってしまったのではないかと思う。
 1975年4月のTBSドラマ「あこがれ共同隊」の主題歌として山田パンダに提供された。ドラマ本編に脈略なく登場した拓郎が「ツケにしといてくれ」と例の学芸会のようなノリでセリフを放つ。それはいいが、山田パンダのレコーディングには拓郎が立ち会い、その時のコーラスが山下達郎だった。山下達郎が当時のことを記している。
 「レコーディングスタヂオで吉田拓郎さんが『すいません、そうじゃないんです♪おっもてぇ~さんどぉうっつ~~って歌って下さい。』・・・それ以来、拓郎さんとは一回も口をきいたことがありませんです。」
 間違いなくタツローはタクローが嫌いだ。・・・と初版では書いた。拓敵である以上、例を尽くして、「へっ、一年をクリスマスだけで暮らす男、山下達郎のことはどうでもいい。」って悪態をついていた。御存知のとおり2012年に二人はラジオ番組を通じて急遽親密になり、お互いのライブにも行く仲になった。但し、拓郎は、山下達郎のことを昔から高く評価していたこともわかった。うーん、長生きはするもんだ。厄介な敵ほど味方になると心強い。山下達郎。いいなぁ。おいおい。
 2009年の拓郎の最後の全国ツアーのメンバー紹介に、インストゥルメンタルで演奏されたのは記憶に新しい。ライブアルバム「18時開演」にも収録された。「コンサートツアーとしては最後になってしまいました。」で始まる拓郎の愛に満ちた語り、泣けとばかりに胸に迫る演奏の秀逸さ、これらの援軍を得て想い出喚起力は最高潮に達する。これは単なるメンバー紹介コーナーではなく、本人歌唱はなくとも、これはこれで一篇の音楽作品だ。聴くたびに涙腺を刺激するこの作品がCDに残ったことを感謝したい。本当に美しいメロディーだ。
時代が変わり、街も人も大きく変わってしまっても、「原宿」といえば、この心湧き立つ「風の街」が浮かぶ。世間から化石といわれようと何と言われようと、この歌があって、この街があるのだと信ずる。

2015.9/27

「ラジオでナイト」のベストテイク・レコーディングの記念すべき第一回で拓郎は、この作品を取り上げた。松任谷正隆のヘッドアレンジのもとでセカンドラインという指示を受けた島村英二がタムをつかい、そこに駒沢裕城のスチールがからむというアンサンブル。コードしか書いてなかったが「せーの」の演奏で大納得のテイクが完成したという。派手ではないが小編成で最高の出来上がりだと絶賛した。以前は、アルバム「明日に向って走れ」のレコーディングはキツかったと述懐していた拓郎だが、ベストテイクとは、そんなこととは関係なく舞い降りてくるものなのか。こんな解題をされると、さんざん聴いた曲なれど新しく出会ったような気持ちであらためて聴き込みたくなる。道の向こうからこの作品に向って手を振りたくなるというものだ。

2017.10/14