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からっ風のブルース

1973年
作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎
アルバム「伽草子」

子ども禁止のサイケなブルース

 アルバム「伽草子」は、この作品で始まる。不穏なギターフレーズ。拓郎が草原にダンガリーシャツで佇む緑まぶしいジャケットのイメージとは違い、いきなり背筋が凍りそうな女性のタメイキに、扇情的で喧噪な演奏がスタートして驚かされる。ソウルフルな曲と人はいうが、もっとエグイ。もともとは「新六文銭」のレパートリーだったのだが、その原曲を叩き壊すようなアレンジになっている。60年代末から70年代の映画でしか観たことがないが、まるで乱痴気パーティーのようなイケイケの演奏だ。前期の拓郎を支えた村岡健のブラス隊も大暴れ。色っぽいというか呪いをかけられているような妖艶な女性のコーラス。こりゃステージでは再現不能だろう。1975年のつま恋のラストステージで演奏されたが、このコーラスが無いぶん狂気のインパクトは多少弱かったような気がする。
 「安いベッドでキスして遊ぼう それからアレも」というストレートすぎる岡本おさみの詞。中学生の頃初めて聴いたときは、イケない歌だぁという気がして大音量では聞けなかったものだ。岡本おさみは、日々酔って新宿の小さな暗闇のようなスナックに逃げ込み「殺気立った魂はジャックナイフのように飢えていた」とこの詞を書いた時の心情を語っている。この詞に潜む絶望的な寂しさを理解するにはもう少し時間と経験が要った。
 それにしても、この作品は、なんといっても「拓郎のシャウト」である。狂乱の演奏もエッチな詞もエロすぎるコーラスも、すべてこの拓郎のシャウトするボーカルの完全な支配下にある。見事だ。この作品のあたりから、拓郎の「シャウト」が実にいい熟成を見せ始めたと思う。例えば前作「元気です」の「また会おう」あたりのシャウトは、まだシャウト慣れしていない・・というかスペックが確立しておらず、拓郎も無理無理に叫んでいる感が強い。しかし、このあたりになると拓郎は自分のシャウトが高品質な武器であることに気づき、技として磨きをかけようという意欲が窺える。そして「若さ」と「ハリ」を味方にして、それはもう絶妙のシャウトになっている。ライブ73、今はまだ人生を語らず、その周辺のライブあたりに惜しみなく展開されファンの心をわしづかみにするシャウト。
 アルバム「伽草子」のオープニングとしてこの作品を聴くとさらに絶妙だ。歌が終わっても「からっ風が吹いていく~~」の妖艶コーラスとともにハイテンションの演奏は延々と続く。あわやこのままフェイドアウトか思いきや突如電源を抜いたみたいにピタッと曲が強制終了する。聴いてる方がいきなりハシゴをはずされたように虚を突かれた瞬間に、あの名曲「伽草子」の美しいイントロが静かにすべりだすのである。ここの繋がりというか流れは、抜群である。まるで「伽草子」という美作品を映えさせるための壮大な前フリではないかとすら思うのだ。それはこの作品に対して失礼だが。いずれにしてもこのアルバムの凄さの一端だろう。

2015.12/12