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KAHALA

1983年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「マラソン」/アルバム「こんにちわ」

南の島の大王は、その名も・・・

 1983年のアルバム「マラソン」で発表された時は、「ハワイを歌う」拓郎にも「君と二人だけの秘密、カハラでもっと作りたい」という困った歌詞にも落胆のような気持ちが強かった。そういうファンは自分以外にもいたに違いない。しかし幾星霜を経て、拓郎のハワイ好きはファンの賛否の嵐も乗りこえ、後年はファンをも巻き込み「拓郎=ハワイ=聖地」の鉄則を強引に確立した。自分も若い頃は「ハワイの唄なんて堕落だ」と批判しながら、25年後にはファン・ミーティングにくっついて行き「拓ちゃーん、アロハ!」とか平気で叫んでて、全く我ながら情けない。とはいえ 拓郎は、とりわけ50歳の「落涙」のバースディをハワイでファンとともに迎えたことが、その後の拓郎の精神的な転換点となったようだ。
 そもそも若き日に拓郎を初めてハワイに連れて行ったのは小室等だったというから意外だ。結婚後は、おケイさんが嫌がる拓郎のお尻を叩いてハワイ・ホノルルにしばしば連れ出したという。ホノルルよりはクロウトな「カハラ」が定宿になったのは、浅田美代子さんのチョイスだった。そして、やがて森下愛子さんとのハワイではマウイ島にシフトする。というようにハワイの中にも拓郎の人生の転変の縮図がある。余計なお世話か。
 拓郎肝いりのガイドブック「教えてハワイ」や拓郎のハワイでの発言を振り返ると、やはりハワイの空気と日差し、そしてゆったりと流れる時間が拓郎をとらえてやまないようだ。
 この作品は、その後2001年のインペリアルの初アルバム「こんにちわ」でリメイクされた。鳥山雄司のアレンジはトロピカルな雰囲気に満ちている。いかにもハワイという情感がある。しかし、アルバム「マラソン」の原曲をあらためて聴き直すとハワイの日差しの眩しさや煌めきのようなものが音にきちんと現れていて、甲乙つけがたい。つける必要もない。おだやかで心地よいサウンドは、いずれのバージョンもハワイの空気を彷彿とさせてくれる。高い空、蒼い海、光射すプールサイド、そしてイルカの泳ぐラグーンの光景が織り込まれたような美しいメロディー。「何もかもが君を君を」は「となりへおいで肩抱いてあげる(あの娘といい気分)」に似ている気もするが、気持ちよさの前には気にならない。
 ハワイのファンミーティングも回を重ね、2011年の企画は残念ながら震災の影響で中止となった。それはいたしかたないが、震災後、週刊誌で「ハワイに避難した芸能人」として虚報を書かれた時はファンとしても怒り心頭であったが。どっかに避難していながら、いつの間にか震災の救世主のようになっている者もおり、まったく油断がならない世の中だ。
 余計なお世話だが、御大はあれからハワイに行かれたのだろうか。ハワイの風に吹かれて、ゆるやかな便りがファンに届く、そんな日が来て欲しいと今は心から思う。

2015.12/5